特許スカウター

最新技術の開発に関わる企業(銘柄)を特許出願に基づき先読み

株式投資に関する情報サイトです。先端技術に焦点を当て、特許出願数が多く、評価できる銘柄を紹介しています。

【遺伝子技術株1】ゲノム編集技術の開発に注力する企業10選|特許データで選ぶ特許銘柄

 ゲノム編集は生命科学の分野に革命をもたらす可能性があり、病気の治療などいろいろと夢を抱かせてくれる技術です。

 そんなゲノム編集技術が本格的に実用化された場合に有望な企業はどこなのか?

 特許出願件数から探ってみました。

 

 結論(簡易版)は以下の通りです。

<特許銘柄TOP10>(2000年-2022年)(非上場を含む)

1 リジェネロン 【REGN】
2 カリフォルニア大学 
3 サンガモ セラピューティクス 【SGMO】
4 BASF 【BAS】
5 ハーバード大学 
6 ノバルティス 【NOVN】
7 ペンシルベニア大学 
8 スタンフォード大学 
9 ギリアード サイエンシーズ 【GILD】
10 ザ ジェネラル ホスピタル 

 ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。

 

 

1.本評価の概要

 本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。

 本評価については以下の記事で紹介しています。

【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価

 簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。

開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い
開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)

 すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。

 これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。

 

 本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。

 本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。

<注意点>
 特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)

 

2.特許銘柄の評価方法

2.1 評価対象

 遺伝子編集全般に関する技術が対象です。

 

2.2 特許検索ツール

 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat

 

2.3 検索条件

 文献種別:国内文献

 検索キーワード:

  検索項目(ⅰ) FI「A61K A61P C12N C12Q」

  検索項目(ⅱ) 全文「ゲノム編集  遺伝子編集   CRISPR   Cas9  Cas12  Cas13 ZFN  ジンクフィンガーヌクレアーゼ  TALEN   転写活性化因子様ヌクレアーゼ」

 検索条件:検索条件(ⅰ) AND 検索条件(ⅱ)

 日付指定:出願日 20000101~20221231

 

3.特許銘柄の評価結果

3.1 期間別の出願件数の推移

 2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2022年の3つの区間に分けました。

 各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

 

 出願人の数、総出願件数ともに2016年~2022年の期間に急増しています。

 

 各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。

(1)2000年~2007年

 出願人180のうち上位5社の推移です。

 

 上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。

<表1>

ノエビア 3.3 件/年
BASF 2.1 件/年
インサイト・ゲノミックス 1.9 件/年
森永乳業 1.5 件/年
デュポン 1.3 件/年

 

(2)2008年~2015年

 出願人数565 のうちの上位5社の推移です。 

 

 上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。

<表2>

サンガモ セラピューティクス 7.9 件/年
BASF 7.8 件/年
セレクティス 5.6 件/年
ダウ アグロサイエンシィズ 3.9 件/年
リジェネロン 2.6 件/年

 上記期間の後半(2014年頃)から出願件数の増加が確認されます。

 

(3)2016年~2022年

 出願人数3220のうちの上位5社の推移です。

 

 上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。

<表3>

カリフォルニア大学 24 件/年
リジェネロン 24 件/年
サンガモ セラピューティクス 14 件/年
ギリアード サイエンシーズ 14 件/年
スタンフォード大学 14 件/年

 国内勢が消えました。

 上記(2)の期間と比べ、平均出願件数が一桁増えています(ホットな技術分野かもという期待が膨らみますかね?)。

 

(4)出願上位企業の推移

 下の表4は表1~表3をまとめたものです。

<表4>

  2000年~2007年 2008年~2015年 2016年~2022年
1 ノエビア
(3.3 件/年)
サンガモ セラピューティクス
(7.9 件/年)
カリフォルニア大学
(24 件/年)
2 BASF
(2.1 件/年)
BASF
(7.8 件/年)
リジェネロン
(24 件/年)
3 インサイト・ゲノミックス
(1.9 件/年)
セレクティス
(5.6 件/年)
サンガモ セラピューティクス
(14 件/年)
4 森永乳業
(1.5 件/年)
ダウ アグロサイエンシィズ
(3.9 件/年)
ギリアード サイエンシーズ
(14 件/年)
5 デュポン
(1.3 件/年)
リジェネロン
(2.6 件/年)
スタンフォード大学
(14 件/年)

 出願件数は2008年-2015年の期間に増加傾向が見られ、それまで年平均1桁だった上位5社の出願件数が2016年-2022年には2桁になりました。

 また、上位5社は海外勢が占めています。

 

3.2 全対象期間での出願件数

 下図は全対象期間における出願件数上位10社です。

 各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

 

 大半が右肩上がりです。

 

 各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。

 全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。

 括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。

<表5>

    平均出願件数
    2000年-2007年 2008年-2015年 2016年-2022年
1 リジェネロン 0.0 件/年
(0.0%)
2.6 件/年
(1.7%)
24 件/年
(1.5%)
2 カリフォルニア大学 0.3 件/年
(0.6%)
1.3 件/年
(0.8%)
24 件/年
(1.6%)
3 サンガモ セラピューティクス 0.3 件/年
(0.6%)
7.9 件/年
(5.0%)
14 件/年
(0.9%)
4 BASF 2.1 件/年
(4.8%)
7.8 件/年
(4.9%)
6 件/年
(0.4%)
5 ハーバード大学 0.0 件/年
(0.0%)
2.3 件/年
(1.4%)
13 件/年
(0.9%)
6 ノバルティス 0.1 件/年
(0.3%)
2.4 件/年
(1.5%)
12 件/年
(0.8%)
7 ペンシルベニア大学 0.0 件/年
(0.0%)
1.9 件/年
(1.2%)
13 件/年
(0.8%)
8 スタンフォード大学 0.0 件/年
(0.0%)
0.8 件/年
(0.5%)
14 件/年
(0.9%)
9 ギリアード サイエンシーズ 0.0 件/年
(0.0%)
0.1 件/年
(0.1%)
14 件/年
(0.9%)
10 ザ ジェネラル ホスピタル 0.0 件/年
(0.0%)
1.3 件/年
(0.8%)
11 件/年
(0.7%)

 

 次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。

 今回は海外企業で占められましたが、日本の出願データのみで評価します。

 ①開発開始時期

 2000年-2007年には出願したのは、カリフォルニア大学、サンガモ セラピューティクス、BASF、ノバルティスです。

 

 ②開発の継続性

 全期間で出願しているのは、上記①と同じくカリフォルニア大学、サンガモ セラピューティクス、BASF、ノバルティスです。

 残りは全て、2008年-2015年の期間に出願しており、2016年-2022年との両期間でいずれも出願しています。

 すなわち、表5に示された出願件数トップ10はいずれも継続的に出願しています。

 

 ③開発成果

 トータル出願件数ではリジェネロン、カリフォルニア大学が多いです。

 サンガモ セラピューティクスがこれにせまる件数です。

 トータル出願件数は以下のとおりです。

<表6>

リジェネロン 186 件
カリフォルニア大学 183 件
サンガモ セラピューティクス 163 件
BASF 119 件
ハーバード大学 112 件

 

4 まとめ:特許銘柄TOP10

 表5に基づく評価は以下の通りです。

 ①開発の開始時期・・・カリフォルニア大学、サンガモ セラピューティクス、BASF、ノバルティスが2000年-2007年には出願

 ②開発の継続性・・・上位10社に大差なし

 ③開発成果・・・リジェネロン、カリフォルニア大学、サンガモ セラピューティクスが上位3社です。

 

 トータル的には、リジェネロン、カリフォルニア大学、サンガモ セラピューティクスの3社が評価できます。

 これらをまとめると以下のとおりです。

<表7>

    出願情報
    ①開始時期 ②継続性 ③成果
1 リジェネロン 【REGN】   〇  186 件
(1.5%)
2 カリフォルニア大学  〇  183 件
(1.5%)
3 サンガモ セラピューティクス 【SGMO】 〇  〇  163 件
(1.3%)
4 BASF 【BAS】 〇  〇  119 件
(1.0%)
5 ハーバード大学    〇  112 件
(0.9%)
6 ノバルティス 【NOVN】 〇  〇  106 件
(0.9%)
7 ペンシルベニア大学    〇  105 件
(0.9%)
8 スタンフォード大学    〇  101 件
(0.8%)
9 ギリアード サイエンシーズ 【GILD】   〇  96 件
(0.8%)
10 ザ ジェネラル ホスピタル    〇  89 件
(0.7%)

上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は最初の出願から各期間における出願の継続が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの

 

5.ご参考

 以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。

5.1 遺伝子関係技術の類型

 遺伝子関係技術をざっくり類型化しました(以下(1)~(4))。

 

(1)遺伝子解析・診断技術

 体の設計図である遺伝子(DNA)を読んで、何が書いてあるか、他の人と比べてどこが違うか、それが体や病気にどう関係しているかを調べる技術です。

 ・遺伝子配列決定
  DNAやRNAの塩基配列を解読する技術

 ・遺伝子多型解析
  個人間の遺伝子の違いを調べる技術

 ・遺伝子発現解析
  特定の条件下でどの遺伝子がどの程度働いているかを調べる技術

 ・遺伝子診断
  遺伝子変異や異常を検出し、遺伝性疾患の診断などをおこなう技術

 ・分子診断
  DNA、RNA、タンパク質などを解析し、感染症、がんなどの疾患を診断する技術

 

(2)遺伝子操作・改変技術

 設計図である遺伝子(DNA)の一部をレシピを書き換えるように人工的に変えたり、別の生き物の遺伝子を組み込んだりする技術です。

 ・遺伝子組換え
  異なる生物由来のDNAを人工的に組み合わせ、生物に導入する技術

 ・ゲノム編集
  生物のゲノムの特定の塩基配列を改変する技術

 ・遺伝子導入
  遺伝子を細胞や個体に導入し、特定の遺伝子の機能を補完・抑制する技術

 

(3)遺伝子応用技術

 これは上記の遺伝子を読んだり、操作したりする技術を使って具体的な製品やサービスを作り出すものです。

 ・遺伝子治療
  遺伝子導入技術を用いて疾患の治療を目指す分野

 ・遺伝子育種
  遺伝子組換えやゲノム編集を利用して、有用な形質を持つ動植物を開発する分野

 ・バイオ医薬品
  遺伝子組換え技術などを利用して製造される医薬品

 ・遺伝子検査サービス
  遺伝子情報を解析し、疾患リスクなどを提供するサービス

 ・合成生物学
  生物の遺伝子や代謝経路を設計、合成し、新たな機能を持つ生物システムを構築する分野

 

(4)関連基盤技術

 これらは遺伝子に関する色々な技術のための裏方的な技術です。

 ・核酸合成、修飾技術
  DNAやRNAの合成や化学的な修飾技術

 ・遺伝子増幅技術(PCRなど)
  特定のDNA断片を大量に増やす技術

 ・バイオインフォマティクス
  大量の遺伝子データを計算科学的に解析する分野

 ・遺伝子保存、バンク技術
  生物の遺伝資源を保存、管理する技術

 

5.2 ゲノム編集技術

 本記事はゲノム編集技術の銘柄を対象にしています。

 ゲノム編集は、上記5.1(2)遺伝子操作・改変技術の一つです。

 生物が元々持っているゲノム(全遺伝情報)の特定の場所を切断、修復、書き換える技術です。

  既存の設計図の特定の部分をピンポイントで修正したり、削除したり、小さな部品を付け加えたりするイメージです。

 遺伝子操作・改変技術として挙げた「遺伝子組み換え」、「遺伝子導入」との違いを表8にまとめました。

<表8>

 

遺伝子組み換え

ゲノム編集 

遺伝子導入

主な操作

外来の遺伝子をゲノムに組み込む

ゲノムの特定部位を編集する:切断、修復、書き換え

外来の遺伝子を細胞や個体に入れる

目的

新しい形質の導入

特定の遺伝子機能の改変、疾患治療など

特定の遺伝子機能の発現、研究など

対象とする遺伝子

外来の遺伝子

生物が元々持つ遺伝子

外来の遺伝子

ゲノムへの影響

新しい遺伝子が追加される

特定の部位が改変される

導入された遺伝子がゲノムに組み込まれる場合とそうでない場合がある

技術例

遺伝子組換え作物、遺伝子組換え微生物

CRISPR-Cas9、TALEN、ZFN

ウイルスベクター、プラスミドDNA導入など

応用例

害虫抵抗性作物、バイオ医薬品生産

遺伝性疾患治療、品種改良

遺伝子治療、遺伝子機能解析

 

5.3 ゲノム編集で何ができるのか?

 まず、医療分野での革新が挙げられます。

 以下に列挙します。

 ・遺伝性疾患の根絶
  多くの遺伝性疾患(嚢胞性線維症、ハンチントン病、筋ジストロフィーなど)に対して根本的な治療につながる可能性があります。

 ・オーダーメイド医療 
  がん治療においては患者のがん細胞特有の遺伝子変異を標的とした精密な治療法が実現する可能性があります。

 ・感染症対策の進化
  ウイルスや細菌の遺伝子を改変することで感染力を弱めたり、新たなワクチンや治療薬の開発につながる可能性があります。

 ・再生医療の高度化
  iPS細胞などの幹細胞の遺伝子を編集して、特定の機能を持つ細胞を効率的に作製したり、移植時の拒絶反応を抑制したりできる可能性があります。

 ・老化メカニズムの解明と介入
  老化に関わる遺伝子の編集によって健康寿命の延伸や加齢に伴う疾患の予防につながる研究が進むかもしれません。

 

 他には、環境ストレスに強い作物やアレルギーフリーの食品開発など食料分野の革新、汚染物質を分解する微生物の開発やバイオ燃料の開発など環境分野の革新などが挙げられます。

 

5.4 ゲノム編集によるリスクは?

 以下のような技術的なリスクがあると言われています。

 ・オフターゲット効果
  目的の遺伝子配列と類似した別の遺伝子配列が意図せず編集されてしまう可能性があります。これにより予測不可能な遺伝子変異やそれによる副作用が生じる可能性があります。

 ・モザイク現象 
  編集がすべての細胞で均一に起こらず、一部の細胞だけが編集された状態になることがあります。これにより期待した効果が得られない、予測しない影響が生じる可能性があります。

 ・予期せぬゲノム変化
  ゲノム編集の過程で大きな欠失、挿入、染色体の異常などの意図しないゲノム構造の変化が引き起こされる可能性があります。

 ・編集効率の低さ
  目的の遺伝子を効率的に編集できない場合があり、治療効果が十分に得られない可能性があります。

 ・長期的な安全性
  遺伝子編集による影響が数年後、数十年後にどのように現れるかはまだ完全に解明されていません。

 

 その他、倫理的、社会的問題があります。

 

 

 

<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報

<留意事項>
・本サイトでは、特許情報を正確かつ最新の状態でお伝えするよう努めていますが、情報の完全性を保証するものではありません。
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