今回は水素関連の技術について焦点をあてます。
水素エンジン車の時代が来た場合に有望な企業はどこなのか?
特許出願件数から探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)
| 1 | トヨタ自動車 【7203】 |
| 2 | マツダ 【7261】 |
| 3 | 日産自動車 【7201】 |
| 4 | 本田技研工業 【7267】 |
| 5 | いすゞ自動車 【7202】 |
| 6 | デンソー 【6902】 |
| 7 | 三菱自動車工業 【7211】 |
| 8 | 日立製作所 【6501】 |
| 9 | ヤンマー |
| 10 | スズキ 【7269】 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
水素エンジンに関連する技術が対象です。
何に搭載するためのものかは区別していません。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) FI「F02B F02D」
検索項目(ⅱ) 明細書「エンジン 内燃機関」
検索項目(ⅲ) 明細書「水素」
除外キーワード:要約/抄録「ハイブリッド 燃料電池 電気自動車 二次電池 2次電池 バッテリ モータ インバータ スタック」
検索条件:検索条件(ⅰ) AND 検索条件(ⅱ) AND 検索条件(ⅲ)
日付指定:出願日 20000101~20231231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数427のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| トヨタ自動車 | 214 件/年 |
| 日産自動車 | 34 件/年 |
| マツダ | 26 件/年 |
| 本田技研工業 | 23 件/年 |
| 日立製作所 | 20 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人数405のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| トヨタ自動車 | 146 件/年 |
| 三菱自動車工業 | 23 件/年 |
| 本田技研工業 | 21 件/年 |
| 日産自動車 | 20 件/年 |
| デンソー | 19 件/年 |
(3)2016年~2023年
出願人数349のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| トヨタ自動車 | 88 件/年 |
| マツダ | 22 件/年 |
| いすゞ自動車 | 17 件/年 |
| 豊田自動織機 | 16 件/年 |
| スズキ | 11 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2023年 | |
| 1 | トヨタ自動車 (214 件/年) |
トヨタ自動車 (146 件/年) |
トヨタ自動車 (87.8 件/年) |
| 2 | 日産自動車 (34 件/年) |
三菱自動車工業 (23 件/年) |
マツダ (22 件/年) |
| 3 | マツダ (26 件/年) |
本田技研工業 (21 件/年) |
いすゞ自動車 (17 件/年) |
| 4 | 本田技研工業 (23 件/年) |
日産自動車 (20 件/年) |
豊田自動織機 (16 件/年) |
| 5 | 日立製作所 (20 件/年) |
デンソー (19 件/年) |
スズキ (11 件/年) |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

トヨタ自動車の出願件数が一貫して減少しています。
その他企業に関しては、上図からは顕著な傾向は視認できません。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2023年 | ||
| 1 | トヨタ自動車 | 214 件/年 (40%) |
146 件/年 (33%) |
88 件/年 (28%) |
| 2 | マツダ | 26 件/年 (4.9%) |
14 件/年 (3.2%) |
22 件/年 (7.0%) |
| 3 | 日産自動車 | 34 件/年 (6.3%) |
20 件/年 (4.5%) |
2.3 件/年 (0.7%) |
| 4 | 本田技研工業 | 23 件/年 (4.2%) |
21 件/年 (4.7%) |
6.9 件/年 (2.2%) |
| 5 | いすゞ自動車 | 9.0 件/年 (1.7%) |
17 件/年 (3.9%) |
17 件/年 (5.4%) |
| 6 | デンソー | 15.5 件/年 (2.9%) |
19 件/年 (4.2%) |
8.9 件/年 (2.8%) |
| 7 | 三菱自動車工業 | 13 件/年 (2.4%) |
23 件/年 (5.2%) |
6.1 件/年 (2.0%) |
| 8 | 日立製作所 | 20 件/年 (3.6%) |
3.5 件/年 (0.8%) |
2.1 件/年 (0.7%) |
| 9 | ヤンマー | 3.6 件/年 (0.7%) |
14 件/年 (3.1%) |
4.0 件/年 (1.3%) |
| 10 | スズキ | 2.4 件/年 (0.4%) |
6.0 件/年 (1.4%) |
11 件/年 (3.6%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
いずれの企業も、上記期間での大差はありません。
②開発の継続性
いずれの企業も各期間中に出願しており、継続性に大差はありません。
③開発成果
相対的にトヨタの出願件数が多く、もっと成果が出ていると評価されます。
トータル出願件数は以下の通りです。
<表6>
| トヨタ自動車 | 3583 件 |
| マツダ | 499 件 |
| 日産自動車 | 448 件 |
| 本田技研工業 | 404 件 |
| いすゞ自動車 | 344 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・上位10社に大差なし
②開発の継続性・・・上位10社に大差なし
③開発成果・・・トヨタ自動車がリード
上記①、②の観点だと上位10社の開発力はいずれも評価できます。
上記③の観点も含めると相対的にトヨタ自動車の開発力が高いと評価できます。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | トヨタ自動車 【7203】 | 〇 | 〇 | 3583 件 (35%) |
| 2 | マツダ 【7261】 | 〇 | 〇 | 499 件 (4.8%) |
| 3 | 日産自動車 【7201】 | 〇 | 〇 | 448 件 (4.3%) |
| 4 | 本田技研工業 【7267】 | 〇 | 〇 | 404 件 (3.9%) |
| 5 | いすゞ自動車 【7202】 | 〇 | 〇 | 344 件 (3.3%) |
| 6 | デンソー 【6902】 | 〇 | 〇 | 343 件 (3.3%) |
| 7 | 三菱自動車工業 【7211】 | 〇 | 〇 | 336 件 (3.2%) |
| 8 | 日立製作所 【6501】 | 〇 | 〇 | 201 件 (1.9%) |
| 9 | ヤンマー | 〇 | 〇 | 172 件 (1.7%) |
| 10 | スズキ 【7269】 | 〇 | 〇 | 156 件 (1.5%) |
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
5.ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 水素エンジンとは
水素エンジン(水素内燃機関)は、水素(H2)を燃料とする方式です(下式)。
反応:2H2+O2→2H2O+熱
→この熱が機械仕事をする。
上の反応からわかるように、原理的に、二酸化炭素(CO2)は発生しません。
以下のサイトにわかりやすい図解があります。
5.2 燃料電池車(FCV)との違い
混同されがちですが、燃料電池(FCV)(下式)とは原理が異なります。
アノード(燃料極:酸化反応):H2→2H++2e-
カソード(空気極:還元反応):1/2O2+2H++2 e-→2H2O
全体反応:H2+1/2O2→H2O+電気エネルギー
→この電気エネルギーが機械仕事をする。
燃料電池車については、以下のサイトにわかりやすい図解があります。
水素・燃料電池実証プロジェクト(Japan Hydrogen & Fuel Cell Demonstration Project)
それぞれ、化学反応でなく、文章で表現すると以下のとおりです。
・水素エンジン
水素と酸素を高温で直接反応させ、化学エネルギーをいったん熱として放出し、その熱膨張によって機械的な仕事を取り出す。
・燃料電池
水素の酸化反応と酸素の還元反応を分離し、電子が外部回路を通って移動するように制御することで、化学エネルギーを熱を介さずに直接電気エネルギーとして取り出す。
5.3 水素エンジンの課題
現在、水素エンジンは普及しているようには見えません。効率面では、
EV(70~80%)>燃料電池(50~60%)>水素エンジン(25~40%)
だと言われており、同じ水素の使用なら燃料電池の方が有利です。
また、製造にかける手間(製造→圧縮・液化→輸送・貯)やコストを考えると、他の燃料から水素に切り替える意味があまりないとも言えます。
その他、NOxの発生や水素ステーションなどのインフラが整備されていない問題も指摘されています。
5.4 水素エンジンの将来市場予想(AI)
どのような分野が可能性があるのかAIに予想させてみました(表8)。
<表8>
| 将来市場 | 市場規模感(将来) | 水素エンジンとの関係性 | 成立可能性の程度 | 投資家目線での評価 |
| 乗用車(個人向け) | 非常に大 | 競合が強すぎる(EV・FCV) | ★☆☆☆☆ | 事実上なし。投資対象外 |
| 商用車(大型トラック・バス) | 大 | FCVと競合、ただし一部用途あり | ★★☆☆☆ | 短期はFCV優位。水素エンジンは周辺部品のみ |
| 建設機械・鉱山機械 | 中 | 高出力・連続運転で適合 | ★★★☆☆ | 現実的ニッチ。単価高・台数少 |
| 船舶(内航・補機) | 中 | 燃料多様化ニーズと合致 | ★★★☆☆ | アンモニアと競合。条件次第 |
| 非常用・分散型発電 | 中 | 信頼性・即応性が評価される | ★★★★☆ | 最有力の一つ。政策次第で伸びる |
| モータースポーツ | 小 | 技術実証・ブランド用途 | ★★★☆☆ | 直接収益は小、技術波及目的 |
| 航空(地上補助・APU) | 小〜中 | 直接推進は不可、補助用途 | ★★☆☆☆ | 周辺用途に限定 |
| 水素社会インフラ(発電・製鉄等) | 非常に大 | 水素供給網の“便乗利用” | ★★★☆☆ | エンジン単体ではなく部品が本命 |
| e-fuel併用内燃機関市場 | 中 | 技術的共通点が多い | ★★★☆☆ | 水素単独より横断技術に妙味 |
| 発展途上国・資源国 | 中 | 電動化困難地域で可能性 | ★★☆☆☆ | 政治・インフラリスク大 |
電動化が厳しい条件であって、高い単価を見出せるようなニッチな場面で可能性があるということでしょうか。
水素エンジンに関しては、今のところ夢を見出す余地が限られている感じがします。
ただし、水素エンジンから離れた水素利用分野に関しては、有望な市場がありそうです(表9:上記同様にAI予想)。
<表8>
| 分野 | 将来市場規模 | なぜ水素が不可欠か | 求められる新技術 | 将来性 |
| グリーン製鉄(還元鉄) | 非常に大 | 炭素還元を水素に置換 | 高温水素反応炉、水素脆化対策 | ★★★★★ |
| 化学原料(水素直接利用) | 非常に大 | アンモニア・メタノール等 | 触媒、水素分離・精製 | ★★★★★ |
| 水素発電(ガスタービン) | 大 | 再エネの調整電源 | 水素燃焼制御、NOx抑制 | ★★★★☆ |
| エネルギー貯蔵(P2G/P2X) | 大 | 電力を水素に変換 | 電解槽、高圧貯蔵 | ★★★★☆ |
| 半導体・電子材料 | 中〜大 | 高純度水素が必須 | 超高純度精製、安全供給 | ★★★★☆ |
| 航空・宇宙(水素推進・燃料) | 中 | 比推力・軽量性 | 液体水素貯蔵・供給 | ★★★★☆ |
| 水素輸送・貯蔵 | 非常に大 | 全分野の基盤 | 液化、水素キャリア | ★★★★★ |
| 水素安全・計測 | 中 | 漏洩・爆発リスク | センサー、材料診断 | ★★★★☆ |
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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・環境省HP 水素技術動向資料
・山梨県/水素エンジンとは?燃料電池との違い・将来性・山梨県での取り組み
<留意事項>
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