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最新技術の開発に関わる企業(銘柄)を特許出願に基づき先読み

先端技術に焦点を当て、特許出願数が多くて評価できる銘柄(特許銘柄)を発信中

【特許銘柄/量子コンピュータ3】量子アニーリング型コンピュータの特許出願動向から選定した主要企業10選

 先の記事で量子コンピュータの時代が来た場合の特許銘柄を探ってみました。

 先の記事: 

 【特許銘柄/量子コンピュータ2】量子ゲート型コンピュータの特許出願動向から選定した主要企業10選

 今回はアニーリング方式と言われる仕組みの量子コンピュータの特許銘柄に焦点をあてました。

 

 結論(簡易版)は以下の通りです。

<特許銘柄TOP10>(2000年-2022年)(非上場を含む)

1 IBM 【IBM】
2 ディー-ウェイブ システムズ 【QBTS】
3 NTT 【9432】
4 NEC 【6701】
5 東芝 
6 グーグル 【GOOGL】【GOOG】
7 アイキューエム フィンランド 
8 ノースロップ グラマン システムズ 
9 科学技術振興機構 
10 マイクロソフト テクノロジー ライセンシング 

 ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。

 

 

1.本評価の概要

 本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。

 本評価については以下の記事で紹介しています。

【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価

 簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。

開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い
開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)

 すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。

 これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。

 

 本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。

 本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。

<注意点>
 特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)

 

2.特許銘柄の評価方法

2.1 評価対象

 量子アニーリング型コンピュータに関連する技術が対象です。

 

2.2 特許検索ツール

 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat

 

2.3 検索条件

 文献種別:国内文献

 検索キーワード:

  検索項目(ⅰ) 請求の範囲「量子コンピュー 量子ビット キュービット  光量子」

  検索項目(ⅱ) FI「G02 G05 G06 G07 G08 G11 G12 G16 G99 H01 H10」

  検索項目(ⅲ) 全文「アニーリング 断熱量子 量子トンネル イジングモデル 二次無制約最適化 ハミルトニアン最適化 スピングラス 超伝導フラックス ジョセフソン接合 量子結合器 組合せ最適化」

 除外キーワード:全文「量子ゲート 論理演算 イオントラップ 超伝導キュービット」

 検索条件:(ⅰ) AND (ⅱ) AND (ⅲ)(除外キーワードを除外)

 日付指定:出願日 20000101~20221231

 

3.特許銘柄の評価結果

3.1 期間別の出願件数の推移

 2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2022年の3つの区間に分けました。

 各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

 

 出願人の数、総出願件数ともに時間とともに増加しています。

 

 各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。

(1)2000年~2007年

 出願人数10のうちの上位5社の推移です。

 

 上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。

<表1>

NTT 0.5 件/年
クコー ピーティーワイ 0.4 件/年
D-Wave Systems 0.4 件/年
理化学研究所 0.4 件/年
科学技術振興機構 0.3 件/年

 

(2)2008年~2015年

 出願人数13のうちの上位5社の推移です。 

 

 上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。

<表2>

NTT 1.4 件/年
D-Wave Systems 0.8 件/年
グーグル 0.3 件/年
ノースロップ グラマン システムズ 0.5 件/年
NEC 0.3 件/年

 

(3)2016年~2022年

 出願人数15のうちの上位5社の推移です。

 

 上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。

<表3>

IBM 7.1 件/年
D-Wave Systems 2.1 件/年
NEC 1.9 件/年
東芝 1.6 件/年
アイキューエム フィンランド 1.3 件/年

 

(4)出願上位企業の推移

 下の表4は表1~表3をまとめたものです。

<表4>

  2000年~2007年 2008年~2015年 2016年~2022年
1 NTT
(0.5 件/年)
NTT
(1.4 件/年)
IBM
(7.1 件/年)
2 クコー ピーティーワイ
(0.4 件/年)
D-Wave Systems
(0.8 件/年)
D-Wave Systems
(2.1 件/年)
3 D-Wave Systems
(0.4 件/年)
グーグル
(0.3 件/年)
NEC
(1.9 件/年)
4 理化学研究所
(0.4 件/年)
ノースロップ グラマン システムズ
(0.5 件/年)
東芝
(1.6 件/年)
5 科学技術振興機構
(0.3 件/年)
NEC
(0.3 件/年)
アイキューエム フィンランド
(1.3 件/年)

 

 2016年-2022年にIBMの出願件数の増加が目立っています。

 ただし、全期間にわたって出願件数が少ないです(検索漏れの可能性もあります)。

 

3.2 全対象期間での出願件数

 下図は全対象期間における出願件数上位10社です。

 各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

 

 全体的には時間経過とともに各社とも出願件数が増えています。

 特に2016年-2022年におけるIBMの増加が顕著です。

 ただし、平均出願件数は一桁で多いとは言えません。

 

 各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。

 全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。

 括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。

<表5>

    平均出願件数
    2000年-2007年 2008年-2015年 2016年-2022年
1 IBM 0.0 件/年
(0.0%)
0.0 件/年
(0.0%)
7.1 件/年
(35.0%)
2 D-Wave Systems 0.0 件/年
(0.0%)
0.8 件/年
(18.2%)
2.4 件/年
(11.9%)
3 NTT 0.6 件/年
(18.2%)
1.4 件/年
(33.3%)
0.9 件/年
(4.2%)
4 NEC 0.3 件/年
(9.1%)
0.3 件/年
(6.1%)
1.9 件/年
(9.1%)
5 東芝 0.0 件/年
(0.0%)
0.1 件/年
(3.0%)
1.6 件/年
(7.7%)
6 グーグル 0.0 件/年
(0.0%)
0.1 件/年
(3.0%)
1.3 件/年
(6.3%)
7 アイキューエム フィンランド 0.0 件/年
(0.0%)
0.0 件/年
(0.0%)
1.3 件/年
(6.3%)
8 ノースロップ グラマン システムズ 0.0 件/年
(0.0%)
0.3 件/年
(6.1%)
0.7 件/年
(3.5%)
9 科学技術振興機構 0.0 件/年
(0.0%)
0.0 件/年
(0.0%)
0.7 件/年
(3.5%)
10 マイクロソフト テクノロジー ライセンシング 0.0 件/年
(0.0%)
0.0 件/年
(0.0%)
0.6 件/年
(2.8%)

次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。

 ①開発開始時期

 NTT、NECが2000年-2007年には出願しています。

 

 ②開発の継続性

 NTT、NECは全期間に出願しています。ただし、NTTは2016年-2022年に出願件数が減少しています。

 継続して出願され、かつ、出願件数が増加しているのはIBM、D-Wave Systems、東芝、グーグル、ノースロップグラマンシステムズです(2008年-2015年と2016年-2022年の2期間における増加を含む)。

 

 ③開発成果

 2016年-2022年にIBMが出願件数を増やしています。

 

 トータルの出願件数は以下のとおりです。

<表6>

IBM 50 件
D-Wave Systems 23 件
NTT 21 件
NEC 17 件
東芝 12 件

 

4 まとめ:特許銘柄TOP10

 表5に基づく評価は以下の通りです。

 ①開発の開始時期・・・NTT、NEC

 ②開発の継続性・・・IBM、D-Wave Systems、NTT、NEC、東芝、グーグル、ノースロップグラマンシステムズ

 ③開発成果・・・IBM

 

 今回は、全期間にわたって出願件数が少なく、顕著な差があると言えるかどうかは微妙です。

 その中でも、直近ではIBMの出願件数が増加しています。

 これらをまとめると以下のとおりです。

<表7>

    出願情報
    ①開始時期 ②継続性 ③成果
1 IBM 【IBM】   〇  50 件
(25.3%)
2 D-Wave Systems 【QBTS】   〇  23 件
(11.6%)
3 NTT 【9432】 〇  〇  21 件
(10.6%)
4 NEC 【6701】 〇  〇  17 件
(8.6%)
5 東芝    〇  12 件
(6.1%)
6 グーグル 【GOOGL】【GOOG】   〇  10 件
(5.1%)
7 アイキューエム フィンランド      9 件
(4.5%)
8 ノースロップ グラマン システムズ    〇  7 件
(3.5%)
9 科学技術振興機構      5 件
(2.5%)
10 マイクロソフト テクノロジー ライセンシング      4 件
(2.0%)

上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は最初の出願から各期間における出願の継続が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの

 

5.ご参考

 以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。

5.1 量子アニーリング型コンピュータとは

 「アニーリング (annealing)」という言葉は元々金属工学における「焼きなまし(焼鈍し)」という熱処理プロセスに由来しています。

 

<焼きなまし>

 金属材料を加工すると内部に歪み(応力)が生じて硬くてもろい状態になります。
 焼きなましはこのような金属を以下の手順で処理することで、柔らかくし、内部の歪みを取り除き、組織を均一化するプロセスです。

①加熱: 金属を特定の高温(再結晶温度以上、融点以下)まで加熱します。
②保持: その温度を一定時間保ちます。
③冷却: ゆっくりと時間をかけて冷却します。

 この処理により金属の結晶構造が再配列されて原子の配列が安定化し、結果として金属が扱いやすくなります。

 

 

 

 量子アニーリングとはこの金属の焼きなましのプロセスを比喩的に応用した最適化アルゴリズムです。

 

 上記金属の状態は、以下のように量子コンピュータにあてはめて考えられます。

・金属配列に相当するのが「量子ビットの状態の組み合わせ」
・金属の歪んだもろい状態(高エネルギー)に相当するのが「最適でない解」
・金属の安定した状態(低エネルギー)に相当するのが「最適解」

 量子アニーリングは高エネルギー状態からよりエネルギーの低い状態を探し出して、行きついた低エネルギー状態を最適解とするものです(この低エネルギー状態を探し出すためには実際に物理的に低温環境を用意する必要があります)。

 

 ただし、量子アニーリングで実際に最適化しようとする問題は、数学的に定義されたエネルギーの概念に対応するものです。

 上記エネルギー状態が、コスト関数と言われるもので対応づけられます。

 

 コスト関数は解の良さを数値化したもので、最小値が最適解に対応します。

 すなわち、高エネルギー状態(高いコスト関数値)からエネルギー状態を低い方へと導き、最小のエネルギー状態(低いコスト関数値)が最適解となります。

 

5.2 量子アニーリング型の活用イメージ

 アニーリング型が得意とするのは、多数の選択肢の中から最適な組み合わせを見つけ出す「組み合わせ最適化問題」です。

 組み合わせ最適化問題についてアニーリング型で解が得られるのは、以下の考え方に基づきます。

 すなわち、問題をエネルギーが低いほど良い解に対応する「エネルギーの地形」として量子コンピュータ上に表現し、また、量子の助けを借りて地形の最も低い谷底(最適解)を効率的に探索できることに基づくものです。

 

<複数の配送先を回るトラックの最適ルートを見つける例>

(以下、①~⑤のイメージ)

①コスト関数の設計

・トラックの移動距離、時間、コストなどを考慮し、各配送ルートがどれだけ「良くないか」を示す数値を計算するルール(コスト関数)を作成
・配送時間や積載量の制限など制約条件についてコストが高くなるような仕組みとしてコスト関数に組み込み(例:時間制限超のルートにペナルティ付与)
・トラックがどのように配送先を回るか「ルートの選択肢」を量子ビットの状態に対応(例:量子ビットの状態の組み合わせが「A→B→C」というルート表現)
・量子ビット同士の影響の調整(例:「Aの次にCに行くなら移動距離が長くなるからエネルギーが高くなる」といった情報を量子ビット間の相互作用として設定)

②初期化

・計算前に全ての量子ビットを色々なルートの可能性が混ざったような状態(重ね合わせに近い状態)に設定(最初から一つのルートに決めず、多様なルートを同時に探す準備イメージ)

③量子アニーリング

・量子コンピュータに「量子ゆらぎ」という、ちょっとしたランダムな動きをする力を与えながら徐々にその力を弱める
・徐々に「エネルギーの低い場所」(コストの低い、良いルート)に落ち着く(ボールがデコボコした地形の上を転がりながら最終的に一番低い場所に落ち着くイメージ。そして、量子ゆらぎが、ボールが小さな山を乗り越えて、より低い谷に移動するのを助けるイメージ)

④測定

・落ち着いたと考えられるタイミングで、どのような状態になったのかを観測
・この状態の組み合わせがトラックが通るべき最適なルートの候補に

⑤結果の分析

・何度も試して一番良い答えを見つける

 このように「どのルートがどれだけ悪いか」というエネルギーの形で表現し、量子コンピュータの力で色々なルートを同時に試しつつ最終的にエネルギーが最も低い、つまり最も良いルートを見つけ出す、という流れがイメージされます。

 また、量子ゆらぎが効率的に多くの可能性を探るための鍵になっています。

 

 他にもアニーリング型によって

金融(金融ポートフォリオの最適化)

製造(生産スケジュールなどの最適化)

創薬(化合物組合せ最適化)

交通(渋滞緩和のための信号制御の最適化)

人工知能(モデルの最適化)

などでのブレークスルーが期待されています。

 

 創薬に関しては、先の記事で量子ゲート型コンピュータでも活用可能性について触れました(先の記事「5.2 量子ゲート型コンピュータの活用イメージ」)。

 量子ゲート型では、電子雲の形状やエネルギー状態を計算し、対象物質の活性部位の予測など、原子・分子レベルでの原理的な理解を助けて、薬剤候補分子の設計などをおこなうイメージでした。

 これに対し、アニーリング型では、候補分子が標的対象の活性部位にどのように結合するか、といった最適配置や結合エネルギーを探索する問題を最適化問題としてモデル化することになります。

 例えば、大量の化合物ライブラリーの中から標的タンパク質に結合する可能性の高い化合物を効率的にスクリーニングするイメージです。

 すなわち、上の例に基づくと、アリーリング型ではコスト関数として組み込むべき情報(結合エネルギーや分子の相互作用の強さなど)は既知情報として用意されている必要があると言えます。

 このようにゲート型、アニーリング型は、問題解決の対象が創薬という同一分野のものであってもやり方や効果は異なってきます。

 

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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報

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