前々回、前回はMRI、ⅭTといった癌検出技術に注力する企業についてとりあげました。
過去記事:
【癌検出技術株3】MRI関連の開発に注力する開発企業10選|特許データで選ぶ特許銘柄
【癌検出技術株4】CT関連の開発に注力する開発企業10選|特許データで選ぶ特許銘柄
今回は、MRIやCTなどで取得された情報に基づき癌などを検出するIT系の分野に焦点を当てます。
AIなどを用いた癌の検出(画像などに基づく検出)技術の開発に関わる有望な企業はどこなのか?
特許出願件数から探ってみました。
AIなどITにより医療診断技術を開発する有望な企業はどこなのか?
特許出願件数から探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)
| 1 | コーニンクレッカ フィリップス 【PHIA】 |
| 2 | 東芝 |
| 3 | 富士フイルム 【4901】 |
| 4 | キヤノン 【7751】 |
| 5 | キヤノンメディカルシステムズ |
| 6 | カリフォルニア大学 |
| 7 | ディープ バイオ |
| 8 | 日立メディコ |
| 9 | ジェネンテック |
| 10 | 日立製作所 【6501】 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
機械学習などによる医療診断などに関連する技術が対象です。
想定するのはガンなどの診断技術ですが、診断、治療などの目的や用いられる技術の厳密な区別はしていません。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) 請求の範囲「癌 肺がん 肺ガン 乳がん 乳ガン 腸がん 腸ガン 腫瘍」
検索項目(ⅱ) 請求の範囲「診断 診察 判定 検査 検知 予測 推測」
検索項目(ⅲ) FI「A61B G06」
検索条件:検索条件(ⅰ) AND 検索条件(ⅱ) AND 検索条件(ⅲ)
日付指定:出願日 20000101~20231231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

出願人の数、総出願件数ともに直近(2016年-2023年)で増加しています。
各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数264のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| コーニンクレッカ フィリップス | 2.6 件/年 |
| 東芝 | 1.4 件/年 |
| ジーイー・メディカル・システムズ | 0.8 件/年 |
| シーメンス メディカル ソリューションズ | 0.8 件/年 |
| 日立メディコ | 0.6 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人数233のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| コーニンクレッカ フィリップス | 3.6 件/年 |
| 東芝 | 3.0 件/年 |
| カリフォルニア大学 | 1.0 件/年 |
| キヤノン | 0.9 件/年 |
| 日立メディコ | 0.9 件/年 |
(3)2016年~2023年
出願人数387のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| キヤノンメディカルシステムズ | 2.5 件/年 |
| 富士フイルム | 2.1 件/年 |
| ディープ バイオ | 1.9 件/年 |
| コーニンクレッカ フィリップス | 1.3 件/年 |
| キヤノン | 1.1 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2023年 | |
| 1 | コーニンクレッカ フィリップス (2.6 件/年) |
コーニンクレッカ フィリップス (4 件/年) |
キヤノンメディカルシステムズ (2.5 件/年) |
| 2 | 東芝 (1.4 件/年) |
東芝 (3.0 件/年) |
富士フイルム (2.1 件/年) |
| 3 | ジーイー・メディカル・システムズ (0.8 件/年) |
カリフォルニア大学 (1.0 件/年) |
ディープ バイオ (1.9 件/年) |
| 4 | シーメンス メディカル ソリューションズ (0.8 件/年) |
キヤノン (0.9 件/年) |
コーニンクレッカ フィリップス (1.3 件/年) |
| 5 | 日立メディコ (0.6 件/年) |
日立メディコ (0.9 件/年) |
キヤノン (1.1 件/年) |
フィリップスだけが全期間にわたって上位5社に入っています。
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

上図全期間中、多くが増加傾向にあります(上位のフィリップス、東芝は減少)。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2023年 | ||
| 1 | コーニンクレッカ フィリップス | 2.6 件/年 (5.8%) |
3.6 件/年 (7.8%) |
1.3 件/年 (1.6%) |
| 2 | 東芝 | 1.4 件/年 (3.1%) |
3.0 件/年 (6%) |
0.3 件/年 (0.3%) |
| 3 | 富士フイルム | 0 件/年 (0.0%) |
0.8 件/年 (1.6%) |
2.1 件/年 (2.8%) |
| 4 | キヤノン | 0.5 件/年 (1.1%) |
0.9 件/年 (1.9%) |
1.1 件/年 (1.5%) |
| 5 | キヤノンメディカルシステムズ | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
2.5 件/年 (3.3%) |
| 6 | カリフォルニア大学 | 0.3 件/年 (0.6%) |
1.0 件/年 (2.1%) |
1.1 件/年 (1.5%) |
| 7 | ディープ バイオ | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
1.9 件/年 (2.5%) |
| 8 | 日立メディコ | 0.6 件/年 (1.4%) |
0.9 件/年 (1.9%) |
0 件/年 (0.0%) |
| 9 | ジェネンテック | 0 件/年 (0.0%) |
0.3 件/年 (0.5%) |
1.1 件/年 (1.5%) |
| 10 | 日立製作所 | 0 件/年 (0.0%) |
0.5 件/年 (1.1%) |
0.6 件/年 (0.8%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
フィリップス、東芝、キヤノン、カリフォルニア大学、日立メディコが2000年-2007年に出願しています。
②開発の継続性
上記①で挙げられた企業は全期間で出願を継続しています。
その他、富士フイルム、ジェネンテック、日立製作所が2008年-2015年から2016年-2023年にかけて出願を継続しています。
③開発成果
フィリップスの増加が最も多いです。
ただし、いずれの企業も出願件数は二桁です。
トータル出願件数は以下の通りです。
<表6>
| コーニンクレッカ フィリップス | 60 件 |
| 東芝 | 37 件 |
| 富士フイルム | 23 件 |
| キヤノン | 20 件 |
| キヤノンメディカルシステムズ | 20 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・フィリップス、東芝、キヤノン、カリフォルニア大学、日立メディコが古くから出願
②開発の継続性・・・フィリップス、東芝、キヤノン、カリフォルニア大学、日立メディコが全期間、富士フイルム、ジェネンテック、日立製作所が直近2期間で継続的に出願
③開発成果・・・フィリップスが最多出願
上記①の観点だとフィリップス、東芝、キヤノン、カリフォルニア大学、日立メディコが評価できます。
上記②の観点だとフィリップス、東芝、キヤノン、カリフォルニア大学、日立メディコおよび富士フイルム、ジェネンテック、日立製作所が評価できます。
上記③の観点も含めるとフィリップスが評価できます。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | コーニンクレッカ フィリップス 【PHIA】 | 〇 | 〇 | 60 件 (4.5%) |
| 2 | 東芝 | 〇 | 〇 | 37 件 (2.8%) |
| 3 | 富士フイルム 【4901】 | 〇 | 〇 | 23 件 (1.7%) |
| 4 | キヤノン 【7751】 | 〇 | 〇 | 20 件 (1.5%) |
| 5 | キヤノンメディカルシステムズ | 20 件 (1.5%) |
||
| 6 | カリフォルニア大学 | 〇 | 19 件 (1.4%) |
|
| 7 | ディープ バイオ | 15 件 (1.1%) |
||
| 8 | 日立メディコ | 〇 | 〇 | 12 件 (0.9%) |
| 9 | ジェネンテック | 〇 | 11 件 (0.8%) |
|
| 10 | 日立製作所 【6501】 | 〇 | 9.0 件 (0.7%) |
|
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
5.ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 AIによる異常の検出精度
陽性(病気あり)と陰性(病気なし)をどれくらい正しく区別できるかをあらわすAUCという指標があります。
AUC:Area Under the ROC Curve(ROC曲線下面積)
下表が示すように、AUCは0.5〜1.0の範囲に収まり、1.0に近いほど精度が高いことをあらわします。
| AUCの値 | モデルの性能イメージ |
| 0.5 | 全く区別できない |
| 0.7 | そこそこ判別できる |
| 0.8 | 実用的に良い性能 |
| 0.9 | かなり高精度 |
| 1 | 完璧に判別できる |
本分野において、0.80–0.95 のレンジにある報告が多いと言われていますが、年齢、人種、撮像装置、撮影条件、施設ごとの運用の違いで性能が変わってきたり、稀な癌種や希少パターンは学習が難しいとも言われています。
下表は研究報告例による精度のイメージです。
| 乳がんマンモグラフィAI | AUC 0.85〜0.95(放射線科医と同等レベルという報告も) |
| 肺がんCT検出AI | AUC 0.90前後 |
| 大腸内視鏡AI | 感度 90%以上、特異度 80〜90% の報告あり(※) |
| 脳腫瘍MRI分類AI | AUC 0.9超の研究例多数 |
※大腸内視鏡ではポリープを検出するタスクが多く、「AIをONにしたときにポリープを何%見逃さなかったか」の方が臨床的に直接的で医師に伝わりやすいため、AUCよりも感度(見逃さない力)・特異度(誤認しない力)が選ばれることが多い。
まとめると、現状のAI画像診断は、研究室内や特定条件では良い精度が報告されているが実地では課題もあり、といったところでしょうか。
<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
<留意事項>
・本サイトでは、特許情報を正確かつ最新の状態でお伝えするよう努めていますが、情報の完全性を保証するものではありません。
・特許情報のご活用や解釈、投資判断などは読者ご自身の責任でお願いいたします。