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最新技術の開発に関わる企業(銘柄)を特許出願に基づき先読み

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【バイオマス関連株3】バイオマス(藻類利用)の開発に注力する開発企業10選|特許データで選ぶ特許銘柄

 前々回、前回、バイオマスについて取りあげました。

 前々回記事:【バイオマス関連株1】バイオマス技術開発において開発に注力する開発企業10選|特許データで選ぶ特許銘柄

 前回記事:【バイオマス関連株2】バイオマス発電の開発に注力する開発企業10選|特許データで選ぶ特許銘柄

 今回は藻類を利用する技術に絞ってみていきます。

 藻類のバイオマス技術の開発に関わる有望な企業はどこなのか?

 特許出願件数から探ってみました。

 

 結論(簡易版)は以下の通りです。

<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)

 ディーエスエム アイピー アセッツについては親会社のDSM-Firmenich AGの証券コード、イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニーについてはデュポン・ド・ヌムールの証券コード、ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシーについては統合後のダウの証券コードです。

1 ディーエスエム アイピー アセッツ 【DSFIR】
2 花王 【4452】
3 ザイレコ 
4 ロケット フレール 
5 イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー 【DD】
6 ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシー 【DOW】
7 富士フイルム 【4901】
8 マーテック バイオサイエンシーズ 
9 フェルメンタル 【 ALGAE】
10 清水建設 【1803】

 ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。

 

 

1.本評価の概要

 本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。

 本評価については以下の記事で紹介しています。

【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価

 簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。

開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い
開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)

 すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。

 これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。

 

 本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。

 本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。

<注意点>
 特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)

 

2.特許銘柄の評価方法

2.1 評価対象

 藻類の利用に関連する技術が対象です。

 

2.2 特許検索ツール

 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat

 

2.3 検索条件

 文献種別:国内文献

 検索キーワード:

  検索項目(ⅰ) 請求の範囲「藻」

  検索項目(ⅱ) 全文「バイオマス」

 検索条件:検索条件(ⅰ)AND 検索項目(ⅱ)

 日付指定:出願日 20000101~20231231

 

3.特許銘柄の評価結果

3.1 期間別の出願件数の推移

 2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。

 各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

 

 時間経過とともに出願人数、出願件数ともに増加しています。

 

 各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。

(1)2000年~2007年

 出願人数146のうちの上位5社の推移です。

 

 上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。

<表1>

イー・アイ・デュポン 3.0 件/年
マーテック バイオサイエンシーズ 1.8 件/年
ディーエスエム アイピー アセッツ 1.0 件/年
ビーエーエスエフ 0.5 件/年
アドバンスド バイオニュートリション 0.4 件/年

 

(2)2008年~2015年

 出願人数337のうちの上位5社の推移です。 

 

 上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。

<表2>

ディーエスエム アイピー アセッツ 6.5 件/年
ロケット フレール 4.4 件/年
花王 3.3 件/年
ダウ アグロサイエンシィズ 3.1 件/年
ザイレコ 2.5 件/年

 

(3)2016年~2023年

 出願人数448のうちの上位5社の推移です。

 

 上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。

<表3>

ザイレコ 2.6 件/年
ディーエスエム アイピー アセッツ 2.3 件/年
花王 2.1 件/年
カーボン テクノロジー 1.6 件/年
清水建設 1.6 件/年

 

(4)出願上位企業の推移

 下の表4は表1~表3をまとめたものです。

<表4>

  2000年~2007年 2008年~2015年 2016年~2023年
1 イー・アイ・デュポン
(3.0 件/年)
ディーエスエム アイピー アセッツ
(6.5 件/年)
ザイレコ
(2.6 件/年)
2 マーテック バイオサイエンシーズ
(1.8 件/年)
ロケット フレール
(4.4 件/年)
ディーエスエム アイピー アセッツ
(2.3 件/年)
3 ディーエスエム アイピー アセッツ
(1.0 件/年)
花王
(3.3 件/年)
花王
(2.1 件/年)
4 ビーエーエスエフ
(0.5 件/年)
ダウ アグロサイエンシィズ
(3.1 件/年)
カーボン テクノロジー
(1.6 件/年)
5 アドバンスド バイオニュートリション
(0.4 件/年)
ザイレコ
(2.5 件/年)
清水建設
(1.6 件/年)

 

3.2 全対象期間での出願件数

 下図は全対象期間における出願件数上位10社です。

 各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

 

 全期間にわたって減少傾向の企業(イー・アイ・デュポン、マーテック バイオサイエンシーズ)、2008年-2015年に出願件数を増加させてその後に減少させた企業(ディーエスエム アイピー アセッツ、ロケット フレール、花王、ダウ アグロサイエンシィズ、富士フイルム)、全期間にわたって増加傾向の企業(ザイレコ、フェルメンタル、清水建設)に分けられます。

 

 各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。

 全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。

 括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。

<表5>

    平均出願件数
    2000年-2007年 2008年-2015年 2016年-2023年
1 ディーエスエム アイピー アセッツ 1.0 件/年
(3.7%)
6.5 件/年
(7.0%)
2.3 件/年
(2.1%)
2 花王 0 件/年
(0.0%)
3.3 件/年
(3.5%)
2.1 件/年
(1.9%)
3 ザイレコ 0 件/年
(0.0%)
2.5 件/年
(2.7%)
2.6 件/年
(2.4%)
4 ロケット フレール 0 件/年
(0.0%)
4.4 件/年
(4.7%)
0.6 件/年
(0.6%)
5 イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー 3.0 件/年
(11.2%)
1.9 件/年
(2.0%)
0 件/年
(0.0%)
6 ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシー 0 件/年
(0.0%)
3.1 件/年
(3.4%)
1.1 件/年
(1.0%)
7 富士フイルム 0 件/年
(0.0%)
2.1 件/年
(2.3%)
0.4 件/年
(0.3%)
8 マーテック バイオサイエンシーズ 1.8 件/年
(6.5%)
0.5 件/年
(0.5%)
0 件/年
(0.0%)
9 フェルメンタル 0 件/年
(0.0%)
1.0 件/年
(1.1%)
1.0 件/年
(0.9%)
10 清水建設 0 件/年
(0.0%)
0.4 件/年
(0.4%)
1.6 件/年
(1.5%)

 

 次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。

 ①開発開始時期

 ディーエスエム アイピー アセッツ、イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー、マーテック バイオサイエンシーズの3社が2000年-2007年には出願しています。 

 

 ②開発の継続性

 8社(イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニーとマーテック バイオサイエンシーズ以外)が出願を継続しています(花王、ザイレコ、ロケット フレール、ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシー、富士フイルム、フェルメンタル、清水建設は2008年-2015年から出願継続)。

 

 ③開発成果

 ディーエスエム アイピー アセッツの出願件数が最多です。

 

 トータル出願件数は以下の通りです。

<表6>

ディーエスエム アイピー アセッツ 78 件
花王 43 件
ザイレコ 41 件
ロケット フレール 40 件
イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー 39 件

 

4 まとめ:特許銘柄TOP10

 表5に基づく評価は以下の通りです。

 ①開発の開始時期・・・3社(ディーエスエム アイピー アセッツ、イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー、マーテック バイオサイエンシーズ)が早期から出願しています。

 ②開発の継続性・・・8社(イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニーとマーテック バイオサイエンシーズ以外)の継続性が確認されます。

 ③開発成果・・・ディーエスエム アイピー アセッツがリードしています。

 

 上記①の観点だと3社(ディーエスエム アイピー アセッツ、イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー、マーテック バイオサイエンシーズ)が評価できます。

 上記②の観点だと8社(イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニーとマーテック バイオサイエンシーズ以外)が評価できます。 

 上記③の観点も含めると相対的にディーエスエム アイピー アセッツの開発力が高いです。

 

 これらをまとめると以下の通りです。

<表7>

 ディーエスエム アイピー アセッツについては親会社のDSM-Firmenich AGの証券コード、イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニーについてはデュポン・ド・ヌムールの証券コード、ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシーについては統合後のダウの証券コードです。

    出願情報
    ①開始時期 ②継続性 ③成果
1 ディーエスエム アイピー アセッツ 【DSFIR】 78 件
(4.3%)
2 花王 【4452】   43 件
(2.3%)
3 ザイレコ    41 件
(2.2%)
4 ロケット フレール    40 件
(2.2%)
5 イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー 【DD】   39 件
(2.1%)
6 ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシー 【DOW】   34 件
(1.9%)
7 富士フイルム 【4901】   20 件
(1.1%)
8 マーテック バイオサイエンシーズ    18 件
(1.0%)
9 フェルメンタル 【 ALGAE】   16 件
(0.9%)
10 清水建設 【1803】   16 件
(0.9%)

 上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
 上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
 上記③成果の割合は総出願数に対するもの

 

5.ご参考

 以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。

5.1 藻類バイオマスとは?

1.バイオマスの種類と藻類バイオマス

 過去記事で紹介した通り、バイオマスにはいくつか種類があります。

 ・木質系バイオマス(木材、林地残材、製材所の端材、間伐材、木くず

 ・農業系バイオマス(稲わら、麦わら、もみ殻、トウモロコシ茎葉、さとうきびバガス

 ・畜産系バイマオス(家畜ふん尿、鶏ふん

 ・廃棄物系バイオマス(食品廃棄物、下水汚泥、紙くず、都市ごみ

 ・藻類系バイオマス(微細藻類(クロレラ、スピルリナなど)、海藻

 

 過去記事:【バイオマス関連株1】バイオマス技術開発において開発に注力する開発企業10選|特許データで選ぶ特許銘柄

 

 この中で、今回の藻類バイオマスは、

 藻類がつくりだす生物資源(バイオマス)

だと言えます。

 

2.対象となる藻類

 大きく分けて以下の2つです。

(1)微細藻類

 ・直径数μm〜100μmの微小な藻類

 ・クロレラ、スピルリナ、ナンノクロロプシス、ボトリオコッカスなど

 ・大量培養ができ燃料・化粧品・食品・飼料に利用される

 ・増殖が速く、脂質や有用物質の生産性が高い

(2)大型藻類

 ・コンブ、ワカメ、アオサ、ホンダワラ類など

 ・主に食材・化成品原料・バイオプラスチック原料になる

 ・海洋で大量生産でき、陸上資源を使わない

 

3.藻類バイオマスを構成する成分と用途

 藻類には以下の成分が含まれ、以下の用途が想定されます。

 ・脂質→バイオディーゼル、機能性油

 ・タンパク質→飼料、食品、代替タンパク

 ・多糖類(糖)→バイオプラスチック、化粧品

 ・色素、機能性成分→サプリ、化粧品

 

5.2 藻類バイオマスの特徴

 他のバイオマスに比べ、藻類バイオマスには以下の特徴(メリット、デメリット)があると言われています。

生産速度が速い(メリット)

 微細藻類は1日で2~4倍に増殖可能

 ⇔森林バイオマスは数十年、農作残差は年1~数回

 

非農地で生産可能(メリット)

 海水、湖沼、人工水槽、砂漠地域、廃水などでも生育可能

 ⇔木質系や農業系は耕地・森林など土地制約が強い

 

成分制御が容易(メリット)

 培養条件(光、窒素制限など)で成分(脂質・タンパク・糖)調整可能

 ⇔木質・稲わらなどは成分が固定で用途に柔軟性が低い

 

利用効率が高い(メリット)

 藻類は細胞構造が単純で90%以上利用可能

 ⇔木質はリグニンが多く利用しにくい、稲わらはセルロース・ヘミセルロース分解にコストがかかる、廃棄物系は不純物が多い

 

高価(デメリット)

 藻類の最大の弱点はコスト、大規模培養や収穫、脱水、脂質抽出などが課題

 ⇔木質ペレット・バイオエタノールなど既に確立した安価なプロセスが多い

 

5.2 藻類バイオマス普及のボトルネック、投資家妙味など

 上記の藻類の特徴などを前提に、藻類バイオマスの普及と投資妙味について、ChatGPTに聞いてみました。

 以下、回答です(表8)。

<表8>

分野 ボトルネック 投資家目線の妙味 技術的実現可能性 投資妙味の大きさ
大規模培養コスト(光管理・PBR) 高価なPBR、光の均一照射困難、スケール化コスト増、汚染対策費 原価の最上流。技術ブレークスルーで事業性が劇的改善。光効率・AI制御・材料革新が“株価インパクト最大級”。 ★★★ ★★★★★
収穫・濃縮コスト(脱水前工程) 遠心・濾過・凝集の高コスト、エネルギー負荷が大きい コストの15〜30%を占める“第二の壁”。膜分離・凝集技術で原価が直接下がるため、燃料用途の商用化鍵。 ★★★★ ★★★★
遺伝子改変・高生産藻株の育種 高脂質化と増殖速度の両立困難、規制面のハードル 生産性を倍増しうる“生物工場”の核心技術。食品・飼料・燃料へ横展開可能。特許価値が極めて高い。 ★★★ ★★★★★
脱水・乾燥の省エネ化 大量の水を含み、乾燥に巨大エネルギー。燃料用途で特に致命的 湿式抽出・非加熱脱水で燃料用途の採算性が飛躍的改善。SAF拡大の追い風も。 ★★ ★★★★
CO₂排ガス利用(CCU連携) 排ガス変動・CO₂耐性・インフラ接続などの運用課題 CO₂削減価値+藻生産価値の二重利益。政策補助が入りやすく、商用化スピードが早い。欧米で投資拡大。 ★★★★ ★★★★

 

 

 

<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報

    <留意事項>
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