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先端技術に焦点を当て、特許出願数が多くて評価できる銘柄(特許銘柄)を発信中

【特許銘柄/癌検出技術2】バイオマーカー検出技術の特許出願動向から選定した主要企業10選

 前回、癌検出技術に注力する企業について全般的に紹介しました。

 前回記事:【特許銘柄/癌検出技術1】癌・腫瘍の早期検出技術の特許出願動向から選定した主要企業10選

 今回はその中でバイオマーカー検出技術について焦点を当てます。

 バイオマーカー検出技術の開発に関わる有望な企業はどこなのか?

 特許出願件数から探ってみました。

 

 結論(簡易版)は以下の通りです。

<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)

1 エフ.ホフマン-ラ ロシュ 【ROG】
2 カリフォルニア大学 
3 ノバルティス 【NOVN】
4 キュラジェン 
5 ジェネンテック 
6 ジュノー セラピューティクス 
7 オンコセラピー・サイエンス 【4564】
8 スタンフォード大学 
9 ザ ジェネラル ホスピタル 
10 ブリストル-マイヤーズ スクイブ 【BMY】

 ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。

 

 

1.本評価の概要

 本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。

 本評価については以下の記事で紹介しています。

【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価

 簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。

開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い
開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)

 すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。

 これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。

 

 本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。

 本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。

<注意点>
 特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)

 

2.特許銘柄の評価方法

2.1 評価対象

 バイオマーカーの検出に関連する技術が対象です。

 

2.2 特許検索ツール

 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat

 

2.3 検索条件

 文献種別:国内文献

 検索キーワード:

  検索項目(ⅰ) 請求の範囲「癌 がん ガン」

  検索項目(ⅱ) 請求の範囲「バイオ 腫瘍 分子 疾患」

  検索項目(ⅱ) 請求の範囲「マーカ 指標」

 検索条件:検索条件(ⅰ) AND 検索条件(ⅱ) AND 検索条件(ⅲ)

 日付指定:出願日 20000101~20231231

 

3.特許銘柄の評価結果

3.1 期間別の出願件数の推移

 2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。

 各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

 

 出願人の数、総出願件数ともに増加傾向です。

 

 各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。

(1)2000年~2007年

 出願人数1090のうちの上位5社の推移です。

 

 

 上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。

<表1>

キュラジェン 5.8 件/年
オンコセラピー・サイエンス 3.8 件/年
シン.クス ファーマ 3.3 件/年
エフ.ホフマン-ラ ロシュ 3.0 件/年
アレス トレイディング 2.6 件/年

 

 

(2)2008年~2015年

 出願人数1225のうちの上位5社の推移です。 

 

 上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。

 

<表2>

エフ.ホフマン-ラ ロシュ 4.9 件/年
カリフォルニア大学 3.5 件/年
オハイオ州立大学 3.0 件/年
ジェネンテック 2.8 件/年
ノバルティス 2.4 件/年
エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト 2.1 件/年

 

(3)2016年~2023年

 出願人数1759のうちの上位5社の推移です。

 

 上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。

<表3>

カリフォルニア大学 5.5 件/年
ジュノー セラピューティクス 5.1 件/年
エフ.ホフマン-ラ ロシュ 3.8 件/年
スタンフォード大学 3.5 件/年
ジェネンテック 2.8 件/年

 

(4)出願上位企業の推移

 下の表4は表1~表3をまとめたものです。

<表4>

  2000年~2007年 2008年~2015年 2016年~2023年
1 キュラジェン
(5.8 件/年)
エフ.ホフマン-ラ ロシュ
(4.9 件/年)
カリフォルニア大学
(5.5 件/年)
2 オンコセラピー・サイエンス
(3.8 件/年)
カリフォルニア大学
(3.5 件/年)
ジュノー セラピューティクス
(5.1 件/年)
3 シン.クス ファーマ
(3.3 件/年)
オハイオ州立大学
(3.0 件/年)
エフ.ホフマン-ラ ロシュ
(3.8 件/年)
4 エフ.ホフマン-ラ ロシュ
(3.0 件/年)
ジェネンテック
(2.8 件/年)
スタンフォード大学
(3.5 件/年)
5 アレス トレイディング
(2.6 件/年)
ノバルティス
(2.4 件/年)
ジェネンテック
(2.8 件/年)

 

3.2 全対象期間での出願件数

 下図は全対象期間における出願件数上位10社です。

 各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

 

 平均出願件数が一桁で、また、大学からの出願が上位にあることから、基礎研究段階の技術である可能性があります。

 

 各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。

 全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。

 括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。

<表5>

    平均出願件数
    2000年-2007年 2008年-2015年 2016年-2023年
1 エフ.ホフマン-ラ ロシュ 3.0 件/年
(1.2%)
4.9 件/年
(1.7%)
3.8 件/年
(0.8%)
2 カリフォルニア大学 1.4 件/年
(0.6%)
3.5 件/年
(1%)
5.5 件/年
(1.2%)
3 ノバルティス 2.5 件/年
(1.0%)
2.4 件/年
(0.9%)
2.0 件/年
(0.4%)
4 キュラジェン 5.8 件/年
(2.4%)
0 件/年
(0.0%)
0 件/年
(0.0%)
5 ジェネンテック 0 件/年
(0.0%)
3 件/年
(1.0%)
2.8 件/年
(0.6%)
6 ジュノー セラピューティクス 0 件/年
(0.0%)
0.4 件/年
(0.1%)
5.1 件/年
(1.1%)
7 オンコセラピー・サイエンス 4 件/年
(1.6%)
1.0 件/年
(0.4%)
0.3 件/年
(0.1%)
8 スタンフォード大学 0 件/年
(0.0%)
0.9 件/年
(0.3%)
3.5 件/年
(0.8%)
9 ザ ジェネラル ホスピタル 0.3 件/年
(0.1%)
0.9 件/年
(0.3%)
2.6 件/年
(0.6%)
10 ブリストル-マイヤーズ スクイブ 1.6 件/年
(0.7%)
0.3 件/年
(0.1%)
1.9 件/年
(0.4%)

 

 次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。

 ①開発開始時期

 エフ.ホフマン-ラ ロシュ、ノバルティス、カリフォルニア大学、キュラジェン、オンコセラピー・サイエンス、ザ ジェネラル ホスピタル、ブリストル-マイヤーズ スクイブが2000年-2007年には出願しています。 

 

 ②開発の継続性

 9社(キュラジェン以外)が出願を継続(ジェネンテック、ジュノー セラピューティクス、スタンフォード大学は2008年-2015年の出願から2016年-2023年まで出願を継続)しています。

 

 ③開発成果

 エフ.ホフマン-ラ ロシュの出願件数が最多です。

 ただし、出願件数は2桁であり、2位以下との差は大きくないです。

 

 トータル出願件数は以下の通りです。

<表6>

エフ.ホフマン-ラ ロシュ 93 件
カリフォルニア大学 83 件
ノバルティス 55 件
キュラジェン 46 件
ジェネンテック 44 件

 

4 まとめ:特許銘柄TOP10

 表5に基づく評価は以下の通りです。

 ①開発の開始時期・・・7社(エフ.ホフマン-ラ ロシュ、カリフォルニア大学、ノバルティス、キュラジェン、オンコセラピー・サイエンス、ザ ジェネラル ホスピタル、ブリストル-マイヤーズ スクイブ)が早くから出願しており、開発開始時期でリードしています。

 ②開発の継続性・・・9社(キュラジェン以外)の継続性が確認されます。

 ③開発成果・・・エフ.ホフマン-ラ ロシュがリードしています。

 

 上記①の観点だと7社(エフ.ホフマン-ラ ロシュ、カリフォルニア大学、ノバルティス、キュラジェン、オンコセラピー・サイエンス、ザ ジェネラル ホスピタル、ブリストル-マイヤーズ スクイブ)が評価できます。

 上記②の観点だと9社(キュラジェン以外)が評価できます。 

 上記③の観点も含めると相対的にエフ.ホフマン-ラ ロシュの開発力が高いですが、他社との差は大きくないです。

 

 これらをまとめると以下の通りです。

<表7>

    出願情報
    ①開始時期 ②継続性 ③成果
1 エフ.ホフマン-ラ ロシュ 【ROG】 93 件
(1.2%)
2 カリフォルニア大学  83 件
(1.1%)
3 ノバルティス 【NOVN】 55 件
(0.7%)
4 キュラジェン    46 件
(0.6%)
5 ジェネンテック    44 件
(0.6%)
6 ジュノー セラピューティクス    44 件
(0.6%)
7 オンコセラピー・サイエンス 【4564】 40 件
(0.5%)
8 スタンフォード大学    35 件
(0.4%)
9 ザ ジェネラル ホスピタル  30 件
(0.4%)
10 ブリストル-マイヤーズ スクイブ 【BMY】 30.0 件
(0.4%)

 上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
 上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
 上記③成果の割合は総出願数に対するもの

 

5.ご参考

 以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。

5.1 バイオマーカーとは

 バイオマーカーとは、疾患の診断基準となったり、治療の効果を判定したりするための検査項目や生体内の物質を指しします(産総研HPより)。

 血液・尿・唾液などに含まれる分子や画像診断で見える変化など、さまざまな形で現れます。

 例えば、

 ・DNA、RNA、タンパク質などの分子マーカー

 ・特定の細胞や細胞表面分子などの細胞マーカー

 ・MRI、CT、PETなどにより見える変化の画像マーカー

 ・血圧、脈拍、脳波などの生理学的マーカー

が挙げられます。

 

 本記事では、癌の検出を目的とする技術をイメージしていますが、用途はさまざまです。

 例えば、

 ・病気の有無や種類を判定する診断(例:肝炎ウイルス抗体)

 ・病気の進行や再発リスクの予後予測(例:がんの遺伝子変異)

 ・薬が効いているかのモニタリング(例:腫瘍マーカーの減少)

 ・発症前のリスク評価(例:遺伝子検査による糖尿病リスク)

といった用途が挙げられます。

 

5.2 癌検出のバイオマーカー

 癌検出に使われるバイオマーカー技術は大きく分けると「何をマーカーとするか」(マーカーの種類による分類)と「どう検出するか」(検出技術による分類)の2軸で整理できます。

 以下、例を挙げます。

 

(1)マーカーの種類による分類

 ①タンパク質マーカー

  腫瘍が直接産生または体が反応して生成するタンパク質

  ・AFP(α-フェトプロテイン:肝癌)

  ・CEA(癌胎児性抗原:大腸癌など)

  ・CA19-9(膵癌)

  ・HER2タンパク(乳癌)

 ②核酸マーカー

  癌細胞に特有の遺伝子変異や発現量の変化

  ・DNA変異(KRAS, EGFR, TP53 変異)

  ・DNAメチル化パターン(プロモーター領域の異常メチル化)

  ・miRNA(特定miRNAの発現増減)

  ・mRNA発現量(オンコジーンや抑制遺伝子)

 ③代謝物マーカー

  癌細胞の代謝異常で生成される物質

  ・乳酸、特定アミノ酸、脂質パターンの変化(メタボローム解析)

 ④免疫応答マーカー

  癌に対する免疫反応を反映する抗体やサイトカイン

  ・抗p53抗体、IL-6の上昇など

 ⑤循環腫瘍関連因子

  ・CTC(Circulating Tumor Cells):血中に流れる癌細胞

  ・cfDNA / ctDNA:血中遊離DNA(癌細胞由来)

  ・エクソソーム:癌細胞が分泌するナノサイズの小胞に含まれる核酸やタンパク質

 

(2)検出技術による分類

 ①免疫学的検出法

  ・ELISA、ラテラルフロー、CLIA(化学発光免疫測定)など

  タンパク質や抗体の定量に利用

 ②核酸増幅法

  ・PCR(リアルタイムPCR、デジタルPCR)

  ・LAMP(ループ媒介等温増幅)

  癌関連遺伝子変異やmiRNA検出に有効

 ③次世代シーケンシング(NGS)

  cfDNAやRNAを網羅的に解析

  癌の総合的ゲノムプロファイリングに利用

 ④質量分析(MS)

  メタボロームやプロテオーム解析に利用

 ⑤バイオセンサー

  ナノ材料(グラフェン、量子ドット)やMEMSを利用したチップ型検出

  POCT(Point-of-Care Testing)向け

 

5.3 技術課題

 癌検出のバイオマーカー技術には依然として多くの課題があります。

 主な問題として考えられるものを以下に挙げます。

 

(1)感度の低さ

 早期癌での検出感度が低い。

 腫瘍量が小さいと血中や尿中のマーカー濃度が極めて低くなる。

 例:膵癌・卵巣癌などは進行しないとマーカーが上がらない。

 腫瘍の種類によって産生量が異なる。

 同じ癌種でも患者ごとにマーカーの分泌量が大きく違う。

 

(2)特異度

 良性疾患や炎症でもマーカーが上昇する。

 例:CA125は卵巣癌以外に子宮内膜症や腹膜炎でも上昇

 例:CA19-9は膵炎や胆石症でも上昇

 生活習慣や加齢による影響がある(CEAは喫煙者で高めに出やすい)。

 

(3)癌種特異性の欠如

 1つのマーカーが複数の癌種で上昇するためどの癌か特定できない。

 結果的に追加の画像検査や侵襲的検査(内視鏡、生検)が必要になる。

 

(4)その他

 個人差・遺伝的背景の影響、標準化・再現性の問題、単独マーカーでの限界、検査コスト、規制・臨床の問題があります。

 

5.4 各マーカーについて

 各マーカーについて下表にまとめました。

<表8>

マーカー名(略称) 主に対象となる癌 本来の役割 問題点 市場規模(予測)
AFP(α-フェトプロテイン) 肝細胞がん、精巣腫瘍 胎児期の肝臓で作られるタンパク質 慢性肝炎や肝硬変でも上昇 (特異度低め) 中(肝がん検診需要は高いが対象者限定)
CEA(がん胎児性抗原) 大腸がん、胃がん、膵がん、肺がん 胎児期の腸や膵で作られる細胞接着分子 喫煙や炎症でも上昇、早期がん検出感度低い 大(消化器がんは罹患数が多く世界的需要大)
CA19-9 膵がん、胆道がん 細胞表面の糖鎖抗原 膵炎・胆石症でも上昇、膵がん早期検出は困難 中(膵がんは患者数は少ないが検査単価高め)
HER2タンパク 乳がん、胃がん 細胞増殖スイッチ受容体 陽性例はがん全体の一部(乳がんの約20%) 中~大(HER2陽性乳がん・胃がん治療市場は拡大)
PSA(前立腺特異抗原) 前立腺がん 精液を液化する酵素 前立腺肥大・炎症でも上昇、過剰診断リスク 大(高齢化で需要拡大、特に北米・欧州)
CA125 卵巣がん 糖タンパク質 月経・妊娠・腹膜炎でも上昇、早期発見感度低い 中(卵巣がん患者数は少ないが検査単価高い)

 

 

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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報

・産総研マガジン バイオマーカーとは?

 

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