前回、暗号資産・ブロックチェーン関連について取りあげました。
前回記事:【特許銘柄/暗号資産・ブロックチェーン1】暗号資産・ブロックチェーン関連の特許出願動向から選定した主要企業10選
暗号資産の土台となるのがブロックチェーンなどです。
現状、技術的な安全性が高いため、改ざんされる心配のない暗号資産の取引が可能になるわけですが、量子コンピュータの進展によって改ざんリスクが懸念されます。
そのような将来リスクに対応するのが耐量子暗号技術です。
耐量子暗号技術の開発に関わる有望な企業はどこなのか?
特許出願件数から探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)
| 1 | コーニンクレッカ フィリップス 【PHIA】 |
| 2 | KDDI 【9433】 |
| 3 | アクセル 【6730】 |
| 4 | 東芝 |
| 5 | キヤノン 【7751】 |
| 6 | NTT 【9432】 |
| 7 | IBM 【IBM】 |
| 8 | アーキット 【ARQQ】 |
| 9 | ピーキューシールド |
| 10 | 日本電気 【6701】 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
耐量子暗号に関連する技術が対象です。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) 全文「耐量子 格子暗号 ポスト量子暗号 符号暗号 Post-Quantum」
検索条件:検索条件(ⅰ)
日付指定:出願日 20000101~20231231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

出願人数、出願件数ともに直近で急増しています(と言っても絶対数はまだ少ない)。
各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数10のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| ヒューレット・パッカード | 1.3 件/年 |
| NECソリューションイノベータ | 0.3 件/年 |
| アクアキャスト | 0.3 件/年 |
| サムスン エレクトロニクス | 0.3 件/年 |
| シャープ | 0.3 件/年 |
| ビー・ビー・ケーブル | 0.3 件/年 |
| マーヴェル・ディーエスピーシー | 0.3 件/年 |
| 沖電気工業 | 0.3 件/年 |
| 三菱電機 | 0.3 件/年 |
| 日立製作所 | 0.3 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人数8のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| ソニー | 0.5 件/年 |
| NTT | 0.5 件/年 |
| KDDI | 0.3 件/年 |
| NTTデータ | 0.2 件/年 |
| パナソニック | 0.2 件/年 |
| 九州先端科学技術研究所 | 0.2 件/年 |
| 富士通 | 0.2 件/年 |
(3)2016年~2023年
出願人数87のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| コーニンクレッカ フィリップス | 2.8 件/年 |
| KDDI | 2.1 件/年 |
| アクセル | 2.0 件/年 |
| 東芝 | 2.0 件/年 |
| キヤノン | 1.8 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2023年 | |
| 1 | ヒューレット・パッカード (1.3 件/年) |
ソニー (0.5 件/年) |
コーニンクレッカ フィリップス (2.8 件/年) |
| 2 | NECソリューションイノベータ (0.3 件/年) |
NTT (0.5 件/年) |
KDDI (2.1 件/年) |
| 3 | アクアキャスト (0.3 件/年) |
KDDI (0.3 件/年) |
アクセル (2.0 件/年) |
| 4 | サムスン エレクトロニクス (0.3 件/年) |
NTTデータ (0.2 件/年) |
東芝 (2.0 件/年) |
| 5 | シャープ (0.3 件/年) |
パナソニック (0.2 件/年) |
キヤノン (1.8 件/年) |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

多くが2016年-2023年の期間に出願件数を増やしています(ただし、件数がまだまだ少ない中ではありますが)。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2023年 | ||
| 1 | コーニンクレッカ フィリップス | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
2.8 件/年 (8.4%) |
| 2 | KDDI | 0 件/年 (0.0%) |
0.3 件/年 (14.3%) |
2.1 件/年 (6.5%) |
| 3 | アクセル | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
2.0 件/年 (6.1%) |
| 4 | 東芝 | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
2.0 件/年 (6.1%) |
| 5 | キヤノン | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
1.8 件/年 (5.3%) |
| 6 | NTT | 0 件/年 (0.0%) |
0.5 件/年 (21.4%) |
1.1 件/年 (3.4%) |
| 7 | IBM | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
1.4 件/年 (4.2%) |
| 8 | アーキット | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
1.0 件/年 (3.0%) |
| 9 | ピーキューシールド | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
1.0 件/年 (3.0%) |
| 10 | 日本電気 | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
1.0 件/年 (3.0%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
KDDIとNTTの2社が2008年-2015年には出願しています。
②開発の継続性
KDDIとNTTの2社が出願を継続しています。
③開発成果
コーニンクレッカ フィリップスの出願件数が最多です。ただし、出願件数は2位以下と僅差です。
トータル出願件数は以下の通りです。
<表6>
| コーニンクレッカ フィリップス | 22 件 |
| KDDI | 19 件 |
| アクセル | 16 件 |
| 東芝 | 16 件 |
| キヤノン | 14 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・2社(KDDIとNTT)が早期から出願しています。
②開発の継続性・・・2社(KDDIとNTT)の継続性が確認されます。
③開発成果・・・コーニンクレッカ フィリップスがややリードしています。
上記①の観点だと2社(KDDIとNTT)が評価できます。
上記②の観点だと2社(KDDIとNTT)が評価できます。
上記③の観点だとコーニンクレッカ フィリップスの開発力がやや評価できます。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | コーニンクレッカ フィリップス 【PHIA】 | 22 件 (7.6%) |
||
| 2 | KDDI 【9433】 | 〇 | 〇 | 19 件 (6.5%) |
| 3 | アクセル 【6730】 | 16 件 (5.5%) |
||
| 4 | 東芝 | 16 件 (5.5%) |
||
| 5 | キヤノン 【7751】 | 14 件 (4.8%) |
||
| 6 | NTT 【9432】 | 〇 | 〇 | 12 件 (4.1%) |
| 7 | IBM 【IBM】 | 11 件 (3.8%) |
||
| 8 | アーキット 【ARQQ】 | 8.0 件 (2.7%) |
||
| 9 | ピーキューシールド | 8.0 件 (2.7%) |
||
| 10 | 日本電気 【6701】 | 8.0 件 (2.7%) |
||
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
5.ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 ブロックチェーンの安全性に関わる技術
ビットコインの安全性の土台となっているブロックチェーンの安全性を保証する技術として、以下が挙げられます。
(1)暗号技術
①ハッシュ関数
任意の長さのデータを固定長の値(ハッシュ値)に変換する関数。
取引データを一方向性のハッシュ値に変換。
1文字でもデータが変わると全く違う値になるため改ざんが即座に検知。
②公開鍵暗号(デジタル署名)
ユーザーは秘密鍵で署名し、他者は公開鍵で検証。
これにより取引の正当性(誰が送ったか)が保証。
(2)ブロックチェーの構造そのもの
各ブロックには直前のブロックのハッシュ値が含まれる。
1つのブロックの改ざんで、その後のすべてのブロックのハッシュ値が不一致(改ざん即バレ)。
(3)分散型ネットワーク
データは多数のノード(コンピュータ)に分散して保管。
一部の改ざんでも他の多数のノードとデータが食い違い正しいチェーンが残る(改ざんの成立が困難)。
(4)コンセンサスアルゴリズム
ネットワーク全体でどのブロックが正しいかを決めるルール
例:PoW(Proof of Work):大量の計算をして最初に答えを見つけたノードがブロックを承認。
PoS(Proof of Stake):保有資産に応じてブロック生成の権利を得る。
(このルールにより悪意あるノードが勝手にデータを確定させることができない)
(5)透明性と検証可能性
ブロックチェーンは多くの場合公開台帳であり誰でも取引履歴を検証できる。
取引が透明化されているため、隠れた改ざんや不正は困難。
5.2 量子コンピュータは脅威になるのか?
量子コンピュータの進歩によってブロックチェーンの安全性は脅かされるのでしょうか?
上記5.1(1)の暗号技術に絞って見ていきます。
①ハッシュ関数
・部分的に脅威だが量子耐性が高い。
・量子アルゴリズムにより総当たり探索の効率が 平方根の速度で高速化されるとすると、256ビットの強度は128ビット相当に低下することになります。
・128ビットの安全性は依然として強固であるし、長いハッシュ値の採用により量子コンピュータの脅威は回避され得る。
②公開鍵暗号(デジタル署名)
・非常に大きな脅威になる。
・公開鍵技術は素因数分解を解くことの難しさなどを利用した技術です。
・量子コンピュータではこうした問題を効率的に解くことができます。
よって量子コンピュータによってこの技術は安全性の弱点になります。
まとめると、上記①に関しては量子耐性が高く(比較的安全)、上記②に関しては脆弱となり得ると考えられます。
これらから総合的に見ると、量子コンピュータは脅威だと言えます。
ハッシュ関数で守られる部分はあったとしても(上記①)、デジタル署名を偽造されて資産が盗まれるリスクがある(上記②)からです。
まあ、耐量子コンピュータとか言う前に、量子コンピュータも汎用機として存在していないので、まだ先の話ではあるのですが。
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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
<留意事項>
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