次世代の電池と言われている全固体電池技術の進展は自動車産業を中心に、さまざまな産業に大きな影響を与える可能性があります。
高エネルギー密度と高い安全性を実現することで電気自動車の航続距離の向上や小型で軽量な電子機器の開発などが期待されます。
全固体電池の時代は来るのか?
それが来た場合に有望な銘柄は何か?
特許出願件数から探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2022年)(非上場含む)
| 1 | トヨタ自動車【7203】 |
| 2 | 日本碍子【5333】 |
| 3 | 京セラ【6971】 |
| 4 | 日産自動車【7201】 |
| 5 | パナソニックIP |
| 6 | 住友電気工業【5802】 |
| 7 | 富士フイルム【4901】 |
| 8 | 出光興産【5019】 |
| 9 | 日本特殊陶業【5334】 |
| 10 | 村田製作所【6981】 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において、対象技術との関連性の低い情報を拾ってしまうこと、逆に対象技術が漏れてしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です。
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
全固体電池に関連する技術が対象です。
本記事では全固体電池の用途や材料の区別はしていません。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) 請求の範囲「全固体 固体電解」
検索項目(ⅱ) 請求の範囲「電池 バッテリ」
検索条件:検索条件(ⅰ) AND 検索条件(ⅱ)
日付指定:出願日 20000101~20221231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2022年の3つの区間に分けました。
各期間における出願件数と出願人数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

出願人の数、出願件数ともに時間とともに増加しています。
各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数327のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| 日産自動車 | 30 件/年 |
| 京セラ | 29 件/年 |
| トヨタ自動車 | 17 件/年 |
| パナソニック | 13 件/年 |
| 三菱マテリアル | 13 件/年 |
日産自動車と京セラが年間で30件程度出願しています。
(2)2008年~2015年
出願人数360のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| トヨタ自動車 | 68 件/年 |
| 日本碍子 | 36 件/年 |
| 住友電気工業 | 21 件/年 |
| 出光興産 | 16 件/年 |
| 京セラ | 15 件/年 |
上記①の期間と比べ、トヨタ自動車の平均出願件数が伸びています。
(3)2016年~2022年
出願人数522のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| トヨタ自動車 | 115 件/年 |
| パナソニックIP | 35 件/年 |
| 本田技研工業 | 21 件/年 |
| 富士フイルム | 20 件/年 |
| 村田製作所 | 15 件/年 |
上記②の期間と比べ、トヨタ自動車の平均出願件数がさらに伸びています。
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2022年 | |
| 1 | 日産自動車 (30件/年) |
トヨタ自動車 (68件/年) |
トヨタ自動車 (115件/年) |
| 2 | 京セラ (29件/年) |
日本碍子 (36件/年) |
パナソニックIP (35件/年) |
| 3 | トヨタ自動車 (17件/年) |
住友電気工業 (21件/年) |
本田技研工業 (20件/年) |
| 4 | パナソニック (13件/年) |
出光興産 (16件/年) |
富士フイルム (20件/年) |
| 5 | 三菱マテリアル (13件/年) |
京セラ (15件/年) |
村田製作所 (15件/年) |
トヨタ自動車だけが全期間にわたって上位5社に入っています。
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

上図全期間中、トヨタ自動車がはっきりとわかる右肩上がりです。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2022年 | ||
| 1 | トヨタ自動車 | 17件/年 (5.2%) |
68件/年 (16.4%) |
115件/年 (20.2%) |
| 2 | 日本碍子 | 5件/年 (1.5%) |
36件/年 (8.8%) |
14件/年 (2.5%) |
| 3 | 京セラ | 29件/年 (9.0%) |
15件/年 (3.6%) |
1件/年 (0.2%) |
| 4 | 日産自動車 | 30件/年 (9.1%) |
6件/年 (1.3%) |
5件/年 (0.9%) |
| 5 | パナソニックIP | 0件/年 (0.0%) |
2件/年 (0.4%) |
35件/年 (6.2%) |
| 6 | 住友電気工業 | 5件/年 (1.7%) |
21件/年 (5.2%) |
3件/年 (0.5%) |
| 7 | 富士フイルム | 6件/年 (1.9%) |
5件/年 (1.1%) |
20件/年 (3.5%) |
| 8 | 出光興産 | 7件/年 (2.1%) |
16件/年 (3.9%) |
4件/年 (0.7%) |
| 9 | 日本特殊陶業 | 10件/年 (3.0%) |
14件/年 (3.3%) |
3件/年 (0.6%) |
| 10 | 村田製作所 | 1件/年 (0.2%) |
10件/年 (2.5%) |
15件/年 (2.7%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
いずれの企業も2000年~2007年には平均して1件以上出願しており(※)、上記期間での大差はないと判断します。
※ パナソニックをパナソニックIPマネジメントにカウントしています(なお、パナソニックIPマネジメントは非上場です)。
②開発の継続性
いずれの企業も各期間中に平均1件以上出願しており、継続性に大差はないと判断します。
③開発成果
2000年~2007年は飛び抜けた企業はありませんでしたが、それ以降はトヨタ自動車の増加が目立っています。
トータルの出願件数は以下のとおりです。
<表6>
| トヨタ自動車 | 1480件 |
| 日本碍子 | 428件 |
| 京セラ | 361件 |
| 日産自動車 | 317件 |
| パナソニックIP | 259件 |
トヨタ自動車は出願件数のばらつきも小さいです。開発成果が毎年コンスタントにでていると判断します。
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・上位10社に大差なし
②開発の継続性・・・上位10社に大差なし
③開発成果・・・2008年以降、トヨタ自動車がリード
これらをまとめると以下のとおりです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | トヨタ自動車 【7203】 | 〇 | 〇 | 1480 件 (15.0%) |
| 2 | 日本碍子 【5333】 | 〇 | 〇 | 428 件 (4.3%) |
| 3 | 京セラ 【6971】 | 〇 | 〇 | 361 件 (3.7%) |
| 4 | 日産自動車 【7201】 | 〇 | 〇 | 317 件 (3.2%) |
| 5 | パナソニックIP | 〇 | 〇 | 259 件 (2.6%) |
| 6 | 住友電気工業 【5802】 | 〇 | 〇 | 235 件 (2.4%) |
| 7 | 富士フイルム 【4901】 | 〇 | 〇 | 223 件 (2.3%) |
| 8 | 出光興産 【5019】 | 〇 | 〇 | 209 件 (2.1%) |
| 9 | 日本特殊陶業 【5334】 | 〇 | 〇 | 209 件 (2.1%) |
| 10 | 村田製作所 【6981】 | 〇 | 〇 | 196 件 (2.0%) |
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は上記3期間のいずれにも出願が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
上記①、②の観点だと上位10社の開発力はいずれも評価できます。
上記③の観点も含めるとトヨタ自動車の開発力が評価できます。
5.参考情報
個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理してみました。
5.1 全固体電池とは
従来の電池は電気を流す部分(電解質)が液体です(下図)。

これに対し、全固体電池は電解質が固体です(下図)。

固体電解質において、電荷を運んで電流を作る役割を担うイオンは、固体電解質の中の欠陥(隙間)を移動します。
5.2 従来の電池との違い
従来の液体電解質の電池に比べて、全固体電池には次のメリットがあると言われています。
|
比較要素 |
従来電池 |
全固体電池 |
|
発火リスク |
有機溶媒の液漏れによる発火リスク有 |
可燃性液体不使用のため低い |
|
寿命 |
イオンと溶媒分子との副反応により短寿命化 |
イオンが固体を通過するだけで副反応が少なく長寿命 |
|
使用温度範囲 |
液体のため範囲狭い |
液体でないため範囲広い(さまざまな環境で使用可) |
|
高容量、高電圧化 |
セルを複数接続する必要があり構造が複雑 |
正極層、固体電解質層、負極層の順に重ねるという点において容易 |
一方、次の課題があると言われています。
|
イオン伝導 |
・固体中でイオンをいかに早く伝導させるか |
|
製造 |
・電極と電解質の緻密な積層など液体電解質に比べ複雑 ・新規設備や材料などが現時点で高コスト |
|
安全性 |
・劣化などによる影響が不明 |
|
その他 |
・低温環境下での性能維持、EV適用に向けた高容量化 ・固体ゆえに電極と電解質の剥離、抵抗の変化がある |
5.3 有望な素材
固体電解質の素材は以下のように類型化されます。

無機系の中では硫化物系電解質と酸化物系電解質が注目されています。
イオンの伝導度が高いのは硫化物系と言われています。
一方、酸化物系は硫化物系に比べて硬いので、圧縮によっても隙間が確保されやすいと言われています。
本記事では固体電解質というざっくりとした括りだったので、電解質の素材で分類した場合についても評価して紹介します。
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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・J-STAGE(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja/)にて公開されている情報
・産総研:酸化物系固体電解質材料を用いた電極で全固体電池の室温作動に成功
・産総研マガジン:全固体電池とは?
<留意事項>
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