前回、ロジック半導体におけるGAA構造トランジスタについて取り上げました。
前回記事:【特許銘柄/次世代半導体5】GAA構造トランジスタの特許出願動向から選定した主要企業10選
さらにその次には、CFET(Complementary Field-Effect Transistor:相補型電界効果トランジスタ)という構造があります。
GAAが横並び住宅のような構造なのに対し、CFETは縦に積み上げた2階建てアパートのような構造です。
すなわち、トランジスタ(素子)を積み上げることで面積を節約し、チップの密度を高める技術です。
CFET構造トランジスタの時代が来た場合に有望な企業はどこなのか?
特許出願件数から探ってみました(ただし、今回の検索は粗く、情報ノイズのそれなりに含まれる可能性があります)。
結論(簡易版)は以下の通りです。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)
| 1 | トーキョー エレクトロン ユーエス |
| 2 | IBM 【IBM】 |
| 3 | 三星電子 【005930】 |
| 4 | ソシオネクスト 【6526】 |
| 5 | レール・リキード 【AI】 |
| 6 | シャープ 【6753】 |
| 7 | スカイワークス ソリューションズ 【SWKS】 |
| 8 | 東京エレクトロン 【8035】 |
| 9 | クアルコム 【QCOM】 |
| 10 | クリエイティクス 【CGTL】 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
CFET構造半導体に関連する技術が対象です。
半導体そのものと評価装置などの区別はしていません。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) 全文「CFET 相補型FET 相補型電界」
検索項目(ⅱ) 全文「nFET pFET 垂直積層」
検索条件:検索条件(ⅰ) AND 検索条件(ⅱ)
日付指定:出願日 20000101~20231231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

出願件数、出願人ともに直近で急激に上昇しています。
各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数11のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| IBM | 0.6 件/年 |
| スボルタ | 0.3 件/年 |
| 東芝 | 0.3 件/年 |
| アドバンスト・マイクロ・ディバイシズ | 0.1 件/年 |
| アンバーウェーブ システムズ | 0.1 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人数12のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| シャープ | 0.8 件/年 |
| ソニー | 0.4 件/年 |
| クリエイティクス | 0.1 件/年 |
| ザヤック | 0.1 件/年 |
| サンケン電気 | 0.1 件/年 |
(3)2016年~2023年
出願人数33のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| トーキョー エレクトロン ユーエス | 3.1 件/年 |
| IBM | 2.3 件/年 |
| 三星電子 | 1.6 件/年 |
| ソシオネクスト | 1.4 件/年 |
| レール・リキード | 0.9 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| トーキョー エレクトロン ユーエス | 25 件 |
| IBM | 23 件 |
| 三星電子 | 14 件 |
| ソシオネクスト | 11 件 |
| レール・リキード | 7.0 件 |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

上図全期間中、多くが2016年-2023年に出願を増やしています。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2023年 | ||
| 1 | トーキョー エレクトロン ユーエス | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
3.1 件/年 (21%) |
| 2 | IBM | 0.6 件/年 (29%) |
0 件/年 (0.0%) |
2.3 件/年 (15%) |
| 3 | 三星電子 | 0.1 件/年 (5.9%) |
0 件/年 (0.0%) |
1.6 件/年 (11%) |
| 4 | ソシオネクスト | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
1.4 件/年 (9.3%) |
| 5 | レール・リキード | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
0.9 件/年 (5.9%) |
| 6 | シャープ | 0 件/年 (0.0%) |
0.8 件/年 (31.6%) |
0 件/年 (0.0%) |
| 7 | スカイワークス ソリューションズ | 0 件/年 (0.0%) |
0.1 件/年 (5.3%) |
0.6 件/年 (4.2%) |
| 8 | 東京エレクトロン | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
0.8 件/年 (5.1%) |
| 9 | クアルコム | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
0.4 件/年 (2.5%) |
| 10 | クリエイティクス | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (5.3%) |
0.3 件/年 (1.7%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
IBM、三星電子が2000年-2007年に出願しており、開発開始時期が早いことが推測されます。
②開発の継続性
スカイワークスソリューションズが2008年-2015年および2016年-2023年に出願しており、継続的に開発していることが推測されます。
③開発成果
トーキョーエレクトロンユーエスが最も出願件数が多く開発成果がでていると推測されます。ただし、2位のIBMも出願件数ではトーキョーエレクトロンユーエスと同程度です。
トータル出願件数は以下の通りです。
<表6>
| トーキョー エレクトロン ユーエス | 25 件 |
| IBM | 23 件 |
| 三星電子 | 14 件 |
| ソシオネクスト | 11 件 |
| レール・リキード | 7.0 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・IBM、三星電子が早期から開発
②開発の継続性・・・スカイワークスソリューションズが継続的に開発
③開発成果・・・トーキョーエレクトロンユーエスが開発成果が最多
上記①の観点だとIBM、三星電子が評価できます。
上記②の観点だとスカイワークスソリューションズが評価できます。
上記③の観点だとトーキョーエレクトロンユーエスが評価できます。
ただし、現時点では、いずれの企業も出願件数が少なく、各社の開発の行方はまだまだわからないと言うべきでしょう。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | トーキョー エレクトロン ユーエス | 25 件 (16%) |
||
| 2 | IBM 【IBM】 | 〇 | 23 件 (15%) |
|
| 3 | 三星電子 【005930】 | 〇 | 14 件 (9.1%) |
|
| 4 | ソシオネクスト 【6526】 | 11 件 (7.1%) |
||
| 5 | レール・リキード 【AI】 | 7.0 件 (4.5%) |
||
| 6 | シャープ 【6753】 | 6.0 件 (3.9%) |
||
| 7 | スカイワークス ソリューションズ 【SWKS】 | 〇 | 6.0 件 (3.9%) |
|
| 8 | 東京エレクトロン 【8035】 | 6.0 件 (3.9%) |
||
| 9 | クアルコム 【QCOM】 | 3.0 件 (1.9%) |
||
| 10 | クリエイティクス 【CGTL】 | 3.0 件 (1.9%) |
||
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
5.ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 CFETとは
半導体の進化は、これまで、より小さく、という平面的な微細化が主役でしたが、最近では3次元の時代に突入してきました。この流れの先端的技術としてCFETが挙げられます。
・CFET(Complementary FET:相補型電界効果トランジスタ)
回路の基本単位となる2種類のトランジスタ(n型とp型)をチップに対して垂直に積み上げた次世代のトランジスタ構造のことです。
・Complementary(相補型)
半導体の回路は、性格が真逆のn型(マイナスの電気で動く)とp型(プラスの電気で動く)がペアになってお互いの弱点を補い合いながら動作しており、これをあらわしています。
・FET
FがField(電界 / でんかい)、 EがEffect(効果 / こうか)、 TがTransistor(トランジスタ)です。
上記C、上記EFT、いずれも新しい言葉というわけではありませんね。
5.2 構造の進化の流れ(半導体の歴史)
半導体の歴史は、電気の流れをコントロールするトランジスタ(スイッチ)をいかに小さく効率よく作るか、すなわち、いかに電気の無駄を減らし、詰め込めるスイッチ数を増やすか、ということが共通項として挙げられます。
これを表にしてみました(下表)。
<表8>
| 世代(量産時期) | 構造名 | 構造のイメージ(イメージ例) | 技術的利点:メリット | 技術的問題:デメリット |
| ~2011年 | プレーナー型 | 平らな地面に電気の通り道がある(平屋の家) | 製造が最もシンプルで低コスト。 | 微細化すると電気が漏れ出し、熱暴走しやすい。 |
| 2012年~ | FinFET | 通り道を壁のように立たせて3方向から囲む(ヒレのある家) | 電気の制御力が強まり、大幅な省エネと高速化を実現。 | 横幅を削る限界が近く、これ以上の小型化が困難。 |
| 2024年~ | GAA | 通り道を浮いたパイプにし、全周から囲む(究極の平屋) | 漏れを完璧に抑え込み、究極の電力効率を達成。 | n型とp型を横並びに置くため設置面積を食う。 |
| 2030年頃~ | CFET | n型とp型をチップに対して垂直に積み重ねる(2階建てアパート) | 面積を約50%削減。 同じ面積に2倍のパワーを凝縮できる。 |
製造難易度が激増。 上下の素子を繋ぐ極小配線の加工が困難。 |
以下の外部サイトには図付きで詳しい説明があります。
ご参考:東京エレクトロン
FinFETからGAAそしてCFETへ、最先端半導体のトランジスタ技術の進化
5.3 各構造の将来性(AI予測)
技術的観点からAIに予測させてみました(下表)。
<表9>
| 構造 | 技術的課題 | 製造難易度 | 市場性 / 投資妙味 | 克服後のインパクト |
| FinFET | 微細化に伴う「電気の漏れ」の制御が限界。横幅をこれ以上削れない。 | ★★ | ★ | 既に成熟した主流技術。 安定感はあるが伸び代は限定的。 |
| GAA | ナノシートを宙に浮かせ、全周を均一に加工・洗浄する超高難度プロセス。 | ★★★★ | ★★★★ | 2nm世代の覇権を握る。 製造装置メーカーへの恩恵大。 |
| CFET | 最大の壁。 性質の違う2層を垂直に積み、その間を極小の配線で繋ぐ神業が必要。 | ★★★★★ | ★★★★★ | 面積半分・性能2倍の革命。 2030年代の半導体市場を独占する可能性。 |
技術的な難易度が上がるほど、それを克服した後のリターンも大きいという当然とも言える予測になりました。
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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
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