前回、次世代半導体である窒化ガリウムに関わる特許銘柄について見ていきました。
前回記事:【特許銘柄/次世代半導体3】GaN(窒化ガリウム)半導体の特許出願動向から選定した主要企業10選
これ以外に、次世代半導体として、酸化ガリウム(Ga2O3)が挙げられます。
今回は、この酸化ガリウムに焦点をあてます。
酸化ガリウムを素材とする半導体に関して有望な企業はどこなのか?
特許出願件数から探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2022年)(非上場を含む)
| 1 | 半導体エネルギー研究所 |
| 2 | タムラ製作所 【6768】 |
| 3 | FLOSFIA |
| 4 | トヨタ自動車 【7203】 |
| 5 | 日立化成 |
| 6 | 出光興産 【5019】 |
| 7 | TDK 【6762】 |
| 8 | 住友電気工業 【5802】 |
| 9 | 三菱電機 【6503】 |
| 10 | ローム 【6963】 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
酸化ガリウム半導体に関連する技術が対象です。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) 請求の範囲「半導体」
検索項目(ⅱ) 請求の範囲「酸化ガリウム Ga2O3」
検索項目(ⅲ) FI「H01L」
検索条件:検索条件(ⅰ) AND 検索条件(ⅱ) AND 検索条件(ⅲ)
日付指定:出願日 20000101~20221231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2022年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

出願人の数、総出願件数ともに時間とともに増加しています。
各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数48のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| 光波 | 1.9 件/年 |
| パナソニック | 1.1 件/年 |
| 昭和電工 | 0.8 件/年 |
| 日本軽金属 | 0.6 件/年 |
| サムソン エレクトロ-メカニックス | 0.5 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人数89のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| 半導体エネルギー研究所 | 11 件/年 |
| タムラ製作所 | 6.3 件/年 |
| 日立化成 | 4.4 件/年 |
| 出光興産 | 2.6 件/年 |
| 住友金属鉱山 | 2.0 件/年 |
(3)2016年~2022年
出願人数127のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| 半導体エネルギー研究所 | 7.4 件/年 |
| FLOSFIA | 5.9 件/年 |
| トヨタ自動車 | 5.6 件/年 |
| タムラ製作所 | 4.9 件/年 |
| TDK | 2.7 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2022年 | |
| 1 | 光波 (1.9 件/年) |
半導体エネルギー研究所 (11 件/年) |
半導体エネルギー研究所 (7.4 件/年) |
| 2 | パナソニック (1.1 件/年) |
タムラ製作所 (6.3 件/年) |
FLOSFIA (5.9 件/年) |
| 3 | 昭和電工 (0.8 件/年) |
日立化成 (4.4 件/年) |
トヨタ自動車 (5.6 件/年) |
| 4 | 日本軽金属 (0.6 件/年) |
出光興産 (2.6 件/年) |
タムラ製作所 (4.9 件/年) |
| 5 | サムソン エレクトロ-メカニックス (0.5 件/年) |
住友金属鉱山 (2.0 件/年) |
TDK (2.7 件/年) |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

上図期間中、出願件数は平均一桁と少ないですが、右肩上がりの兆しがあり、今後の開発が期待されます。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2022年 | ||
| 1 | 半導体エネルギー研究所 | 0 件/年 (1.9%) |
11 件/年 (20%) |
7 件/年 (11%) |
| 2 | タムラ製作所 | 0 件/年 (0.0%) |
6 件/年 (12%) |
5 件/年 (7.4%) |
| 3 | FLOSFIA | 0 件/年 (0.0%) |
1 件/年 (1.9%) |
6 件/年 (8.9%) |
| 4 | トヨタ自動車 | 0 件/年 (0.9%) |
0 件/年 (0.0%) |
6 件/年 (8.5%) |
| 5 | 日立化成 | 0 件/年 (0.0%) |
4 件/年 (8.2%) |
0 件/年 (0.2%) |
| 6 | 出光興産 | 0 件/年 (0.0%) |
3 件/年 (4.9%) |
0 件/年 (0.7%) |
| 7 | TDK | 0 件/年 (0.9%) |
0 件/年 (0.7%) |
3 件/年 (4.1%) |
| 8 | 住友電気工業 | 1 件/年 (3.8%) |
2 件/年 (3.7%) |
0 件/年 (0.7%) |
| 9 | 三菱電機 | 0 件/年 (0.0%) |
1 件/年 (2.1%) |
2 件/年 (2.6%) |
| 10 | ローム | 0 件/年 (1.9%) |
1 件/年 (1.4%) |
2 件/年 (2.4%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
半導体エネルギー研究所、トヨタ自動車、TDK、住友電気工業、ロームが既に2000年-2007年には出願しています。
②開発の継続性
上記①の5社のうち、半導体エネルギー研究所、TDK、住友電気工業、ロームは全期間で出願を継続しています。
また、タムラ製作所、FLOSFIA、日立化成、出光興産、三菱電機は、2008年-2015年から2016年-2022年にかけて継続して出願しています。
トヨタは2008年-2015年には出願が確認されませんでしたが、2016年-2022年には再び出願されています。
③開発成果
トータルで100件以上出願しているのは、半導体エネルギー研究所です。
それに続くののがタムラ製作所です。
トータル出願件数は以下の通りです。
<表6>
| 半導体エネルギー研究所 | 138 件 |
| タムラ製作所 | 84 件 |
| FLOSFIA | 49 件 |
| トヨタ自動車 | 40 件 |
| 日立化成 | 36 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・半導体エネルギー研究所、トヨタ自動車、TDK、住友電気工業、ロームが2000年-2007年には出願
②開発の継続性・・・全10社に大差なし
③開発成果・・・半導体エネルギー研究所、タムラ製作所が多い。
上記①の観点だと半導体エネルギー研究所、トヨタ自動車、TDK、住友電気工業、ロームが評価できます。
上記②の観点だと上位10社の開発力はいずれも評価できます。
上記③の観点も含めると半導体エネルギー研究所が評価できます。次がタムラ製作所です。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | 半導体エネルギー研究所 | 〇 | 〇 | 138 件 (14%) |
| 2 | タムラ製作所 【6768】 | 〇 | 84 件 (8.5%) |
|
| 3 | FLOSFIA | 〇 | 49 件 (4.9%) |
|
| 4 | トヨタ自動車 【7203】 | 〇 | 〇 | 40 件 (4.0%) |
| 5 | 日立化成 | 〇 | 36 件 (3.6%) |
|
| 6 | 出光興産 【5019】 | 〇 | 24 件 (2.4%) |
|
| 7 | TDK 【6762】 | 〇 | 〇 | 23 件 (2.3%) |
| 8 | 住友電気工業 【5802】 | 〇 | 〇 | 23 件 (2.3%) |
| 9 | 三菱電機 【6503】 | 〇 | 21 件 (2.1%) |
|
| 10 | ローム 【6963】 | 〇 | 〇 | 19 件 (1.9%) |
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
5 ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 酸化ガリウムとは
酸化ガリウム(Ga₂O₃)は先の記事で取り上げた炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)に次ぐ第三の新素材とも言われます。
<メリット>
・バンドギャップが非常に大きい
Ga₂O₃のバンドギャップは約4.8~4.9 eVであり、Si(1.1 eV)やSiC(3.3 eV)、GaN(3.4 eV)よりも広く、高電圧・高温環境でも動作可能です。
電車、EV、電源装置などでの応用が期待されています。
・基板の単結晶成長が比較的簡単
GaNやSiCに比べて量産性・コスト面で有利であると言われています。
<デメリット>
・電子移動度が低い
これにより電流をON/OFFする速度が遅くなります。
高速スイッチングが求められる製品(EV駆動用インバーターなど)には不向きだと言えます(⇔家庭用コンセントからEVのバッテリーを充電するための車載充電装置、電車用降圧コンバータ、サーバー電源など、高速スイッチングが求められなず、高耐圧を活かせる製品向き)
・p型導電性が作れない
半導体デバイスの多くはn型とp型を接合して動作するものであり、p型が作れないことでデバイス構造が制限され、製品展開が制約されます。
高効率な電力変換回路、高度な論理回路を要する製品には不向きです。
以上を鑑みると、高耐圧が求められ、構造がシンプルな製品のニーズが予想されます。
5.2 他の次世代半導体を含めた比較
以下は前々回記事でまとめた半導体の比較表です。
<表8>
| 特性項目 | 特性の利点例 | シリコン | 炭化ケイ素 | 窒化ガリウム | 酸化ガリウム |
| バンドギャップ | 安定動作 | × | △ | △ | 〇 |
| 絶縁破壊電界強度 | デバイス小型化 | × | △ | △ | 〇 |
| 電子移動度 | ON/OFFの切替速度 | △ | × | 〇 | × |
| 飽和ドリフト速度 | 高速動作 | × | 〇 | 〇 | × |
| 熱伝導率 | 冷却容易 | △ | 〇 | × | × |
| 耐熱温度 | 高温安定動作 | × | 〇 | △ | 〇 |
| 製造コスト | 安価大量生産 | 〇 | × | × | ? |
| 結晶成長の容易さ | 高品質安価大量生産 | 〇 | × | × | △ |
| 欠陥密度 | 高品質 | 〇 | × | × | ? |
| 高耐圧・大電力性能 | 高電圧、大電流制御 | × | 〇 | △ | 〇 |
| 高周波性能 | 高速通信、電力変換 | × | △ | 〇 | × |
| P型半導体化 | 回路設計の自由度 | 〇 | 〇 | △(?) | × |
上表中の〇、△、×は相対的なものです(〇が優位と思われるもの、△は中間、×は不利と思われるもの)。(バンドギャップなどの物性値は不変なものですが、製造コストなど開発状況や普及度合いによって変わってくるものもありますので、あくまでご参考ということで)
<関連記事>
・半導体の記事
【特許銘柄/次世代半導体1】次世代半導体の特許出願動向から選定した主要企業10選
【特許銘柄/次世代半導体2】SiC(炭化ケイ素)半導体の特許出願動向から選定した主要企業10選
【特許銘柄/次世代半導体3】GaN(窒化ガリウム)半導体の特許出願動向から選定した主要企業10選
【特許銘柄/次世代半導体5】GAA構造トランジスタの特許出願動向から選定した主要企業10選
【特許銘柄/次世代半導体6】 CFET構造半導体の特許出願動向から選定した主要企業10選
<関連記事>
・半導体の記事
【特許銘柄/次世代半導体1】次世代半導体の特許出願動向から選定した主要企業10選
【特許銘柄/次世代半導体2】SiC(炭化ケイ素)半導体の特許出願動向から選定した主要企業10選
【特許銘柄/次世代半導体3】GaN(窒化ガリウム)半導体の特許出願動向から選定した主要企業10選
【特許銘柄/次世代半導体5】GAA構造トランジスタの特許出願動向から選定した主要企業10選
【特許銘柄/次世代半導体6】 CFET構造半導体の特許出願動向から選定した主要企業10選
<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・経産省 半導体政策の動向
<留意事項>
・本サイトでは、特許情報を正確かつ最新の状態でお伝えするよう努めていますが、情報の完全性を保証するものではありません。
・特許情報のご活用や解釈、投資判断などは読者ご自身の責任でお願いいたします。