人工知能や高性能コンピュータなど、半導体需要が大きくなる中、次世代半導体の技術革新を牽引する企業は、将来の市場を支配する可能性を秘めています。
次世代半導体に関して有望な企業はどこなのか?
特許出願件数から探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2022年)(非上場を含む)
| 1 | ルネサスエレクトロニクス 【6723】 |
| 2 | 東芝 |
| 3 | パナソニック 【6752】 |
| 4 | 三菱電機 【6503】 |
| 5 | 住友電気工業 【5802】 |
| 6 | シャープ 【6753】 |
| 7 | ローム 【6963】 |
| 8 | ソニー 【6758】 |
| 9 | 富士電機 【6504】 |
| 10 | 富士通 【6702】 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
半導体に関連する技術が対象です。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) 請求の範囲「半導体」
検索項目(ⅱ) 請求の範囲「GaN ガリウムナイトライド 窒化ガリウム 酸化ガリウム Ga2O3 SiC 炭化ケイ素 シリコンカーバイド グラフェン MoS 硫化モリブデン 二硫化モリブデン モリブデンディスルフィド InSb アンチモン化インジウム インジウムアンチモナイド CNT カーボンナノチューブ SiB ホウ化ケイ素 ホウ素化シリコン トポロジカル絶縁体 ダイヤモンド」
検索項目(ⅲ) FI「H01L」
検索条件:検索条件(ⅰ) AND 検索条件(ⅱ) AND 検索条件(ⅲ)
日付指定:出願日 20000101~20221231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2022年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

出願人の数、総出願件数ともに時間とともに減少しています。
各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数1090のうちの上位5社の推移です。

ルネサスエレクトロニクスの出願件数は、出願人名「ルネサステクノロジ」の出願件数を含めたものです(以下同様)。
上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| ルネサスエレクトロニクス | 134 件/年 |
| パナソニック | 102 件/年 |
| 東芝 | 95 件/年 |
| シャープ | 55 件/年 |
| ソニー | 46 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人数1085のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| 東芝 | 95 件/年 |
| ルネサスエレクトロニクス | 70 件/年 |
| 三菱電機 | 59 件/年 |
| 住友電気工業 | 58 件/年 |
| シャープ | 39 件/年 |
(3)2016年~2022年
出願人数832のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| 三菱電機 | 48 件/年 |
| ローム | 42 件/年 |
| 富士電機 | 25 件/年 |
| 東芝 | 22 件/年 |
| トヨタ自動車 | 22 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2022年 | |
| 1 | ルネサスエレクトロニクス (134 件/年) |
東芝 (95 件/年) |
三菱電機 (48 件/年) |
| 2 | パナソニック (102 件/年) |
ルネサスエレクトロニクス (70 件/年) |
ローム (42 件/年) |
| 3 | 東芝 (95 件/年) |
三菱電機 (59 件/年) |
富士電機 (25 件/年) |
| 4 | シャープ (55 件/年) |
住友電気工業 (58 件/年) |
東芝 (22 件/年) |
| 5 | ソニー (46 件/年) |
シャープ (39 件/年) |
トヨタ自動車 (22 件/年) |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

パナソニックの出願件数は、出願人名「パナソニックIPマネジメント」の出願件数を含めたものです。
上図全期間中、多くが右肩下がりです。何だかなー。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2022年 | ||
| 1 | ルネサスエレクトロニクス | 134 件/年 (8.6%) |
70 件/年 (5.5%) |
18 件/年 (2.5%) |
| 2 | 東芝 | 95 件/年 (6.1%) |
95 件/年 (7.6%) |
22 件/年 (3.1%) |
| 3 | パナソニック | 102 件/年 (6.6%) |
46 件/年 (3.6%) |
12 件/年 (1.6%) |
| 4 | 三菱電機 | 16 件/年 (1.0%) |
59 件/年 (4.7%) |
48 件/年 (6.6%) |
| 5 | 住友電気工業 | 41 件/年 (2.6%) |
58 件/年 (4.6%) |
10 件/年 (1.4%) |
| 6 | シャープ | 55 件/年 (3.5%) |
39 件/年 (3.1%) |
1 件/年 (0.2%) |
| 7 | ローム | 23 件/年 (1.5%) |
29 件/年 (2.3%) |
42 件/年 (5.8%) |
| 8 | ソニー | 46 件/年 (3.0%) |
19 件/年 (1.5%) |
2 件/年 (0.3%) |
| 9 | 富士電機 | 14 件/年 (0.9%) |
28 件/年 (2.3%) |
25 件/年 (3.5%) |
| 10 | 富士通 | 23 件/年 (1.5%) |
24 件/年 (1.9%) |
14 件/年 (2.0%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
いずれの企業も、上記期間での大差はないです。
②開発の継続性
いずれの企業も各期間中に出願しており、継続性に大差はないです。
③開発成果
トータルで1000件以上出願しているのは、ルネサスエレクトロニクス、東芝、パナソニックです。
ルネサスエレクトロニクスと東芝の出願件数は僅差です。
ただし、両者とも時間経過とともに出願件数を大きく減らしています。
トータル出願件数は以下の通りです。
<表6>
| ルネサスエレクトロニクス | 1756 件 |
| 東芝 | 1680 件 |
| パナソニック | 1264 件 |
| 三菱電機 | 937 件 |
| 住友電気工業 | 859 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・上位10社に大差なし
②開発の継続性・・・上位10社に大差なし
③開発成果・・・ルネサスエレクトロニクス、東芝が多い。
上記①、②の観点だと上位10社の開発力はいずれも評価できます。
上記③の観点も含めると相対的にルネサスエレクトロニクス、東芝の開発力が高いと評価できます。ただし、いずれの出願件数も直近で大きく減少しています。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | ルネサスエレクトロニクス 【6723】 | 〇 | 〇 | 1756 件 (6.4%) |
| 2 | 東芝 | 〇 | 〇 | 1680 件 (6.1%) |
| 3 | パナソニック 【6752】 | 〇 | 〇 | 1264 件 (4.6%) |
| 4 | 三菱電機 【6503】 | 〇 | 〇 | 937 件 (3.4%) |
| 5 | 住友電気工業 【5802】 | 〇 | 〇 | 859 件 (3.1%) |
| 6 | シャープ 【6753】 | 〇 | 〇 | 756 件 (2.7%) |
| 7 | ローム 【6963】 | 〇 | 〇 | 706 件 (2.6%) |
| 8 | ソニー 【6758】 | 〇 | 〇 | 538 件 (2.0%) |
| 9 | 富士電機 【6504】 | 〇 | 〇 | 515 件 (1.9%) |
| 10 | 富士通 【6702】 | 〇 | 〇 | 478 件 (1.7%) |
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は最初の出願から各期間における出願の継続が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
5 ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 次世代半導体とは
次世代半導体という言葉は現在の主流であるシリコン(Si)半導体の限界を超えるために開発・研究されている半導体技術全般を指します。
Siに代わる新しい素材として、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)、ダイヤモンドなどが挙げられます。
これらの素材が従来のSi半導体よりも高い性能を持つのは、主にバンドギャップ(※)という半導体の重要な物性値が大きく異なるためです。
※バンドギャップとは、半導体中の電子が電流を流さない状態(価電子帯)から電流を流す状態(伝導帯)へ移動するために必要なエネルギーの差を指します。バンドギャップが広い材料ほど、以下の特性を持つことができます(表8)。
<表8>
| 高温動作が可能 | ・熱エネルギーによって電子が伝導帯へ励起されにくい ・これにより高温環境下でも不必要なキャリア(電流を流す粒子)の発生が抑えられ、デバイスの特性が安定し、誤動作や熱暴走のリスクが低減 |
| 高耐圧・低オン抵抗 | ・絶縁破壊電界強度(電気を通さない物質が耐えられる限界の電界の強さ)が非常に高いため同じ耐圧を実現するために必要な半導体層の厚みを薄くでき、かつドーピング濃度(電気的な性質を変える不純物の濃度)を高く設定可能 ・これにより電流が流れる際の抵抗(オン抵抗)を大幅に低減し、電力損失を最小限に抑えることが可能 |
| 高速スイッチング | ・デバイスの寄生容量(電気を蓄える性質や効果)が小さい ・一部の材料では逆回復電荷がほとんど発生しないため高速でのオン/オフ切り替えが可能 ・これによりスイッチング時に発生する損失を削減し、高周波での動作が可能 |
このような特性と、2ナノメートル、1ナノメートルという微細加工によって、従来のSi半導体では実現できなかった高速性、高耐電圧、低損失、低消費電力などが発揮され、そのデータ処理能力や電力効率は、AI、IoT、自動運転、5G/6G通信、EV(電気自動車)、再生可能エネルギーといった技術に役立てられます。
「パワー半導体」という言葉があります。これは電力の制御・変換という機能に焦点が当てられたもので、大電力(高電圧、大電流)を効率よく制御・変換するための半導体デバイスの総称です。次世代半導体の領域がパワー半導体の領域と重なる部分は大きく、その場合は次世代パワー半導体と呼ばれることになります。
5.2 各素材の半導体
上記の炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)、ダイヤモンドの4種類の半導体の特徴は以下の通りです。
・炭化ケイ素(SiC)
シリコンよりも高耐圧、低損失、高温動作が可能
主に電気自動車(EV)のインバーターや充電器、太陽光発電、鉄道車両の電力変換装置など、高電圧・大電流を扱うパワー半導体分野で活用が期待
・窒化ガリウム(GaN)
シリコンよりも高速スイッチングが可能
ACアダプター、サーバー電源、5G通信の基地局、レーダーなど、高速な動作や小型化が求められる分野で活用が期待
・酸化ガリウム(Ga2O3)
SiCやGaNよりもさらに高い性能・効率を実現できる可能性
次世代のパワー半導体材料として期待
・ダイヤモンド
物性面から見れば究極の半導体材料とされ、高耐圧、高熱伝導率、高耐放射線性などの優れた特性
EVや次世代通信基地局(6G)などへの応用が期待
また、各半導体の物性値の比較表が以下のサイトに示されています。
アイアール技術者教育研究所
【パワー半導体の基礎】ワイドバンドギャップ半導体の特徴/メリット/課題
5.3 今後の動向
以下(リンク先)に市場予測があります。
富士経済グループ プレスリリース24020号
この予測に基づくと、各半導体は以下のように左から順に普及していくことがイメージされます。
SiC→GaN→Ga2O3→ダイヤモンド
上記および各種情報をもとに、各半導体について以下にまとめました(表9)。
<表9>
| シリコン (Si) | 炭化ケイ素 (SiC) | 窒化ガリウム (GaN) | 酸化ガリウム (Ga2O3) | ダイヤモンド (C) | |
| 製造コスト | 最も安価 (確立済) | Siより高価 (基板が高価) | Siより高価 (基板が高価) | 有望 (Si基板代替の可能性) | 最も高価 |
| 普及のための技術課題 | なし (成熟済) | 基板の大型化・高品質化、欠陥抑制 | 基板の大型化・高品質化、放熱 | 熱伝導率の改善、N型ドーピング | 単結晶育成、ドーピング、加工 |
| 実施、開発状況 | 現在主流(CPU, メモリ, パワー半導体全般) | 普及拡大中(EVインバーター, 鉄道, 産業機器) | 普及拡大中(急速充電器, 5G/6G基地局, LiDAR) | 研究開発段階 | 基礎研究・一部実証 |
| その他参考情報 | ・半導体産業の基礎 ・製造技術が確立 ・物理的限界に近づく |
・高温・高電力に適応 ・エネルギー損失を大幅削減 ・一部、EVへの適用 |
・高周波・高速スイッチング ・デバイスの小型化 ・軽量化に貢献 ・高効率な電力変換 |
・SiC/GaNを凌ぐ超低損失性 ・Si同様の製造プロセスに期待 ・熱処理が大きな課題 |
・究極の物性値 ・高耐圧・高効率・高温動作 ・放射線耐性も高い ・コストと製造難易度が課題 |
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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・経産省 半導体政策の動向
・産総研マガジン ダイヤモンド半導体とは?
<留意事項>
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