前回は太陽電池の開発に関わる銘柄に焦点を当てました。
前記事:【特許銘柄/太陽電池1】太陽電池の特許出願動向から選定した主要企業10選
ただし、前回は太陽電池全般として見ていました。
今回はペロブスカイト太陽電池に焦点を当てて見ていきます。
ペロブスカイト太陽電池の有望な企業はどこなのか?
特許出願件数から探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2022年)(非上場を含む)
| 1 | 積水化学工業 【4204】 |
| 2 | 東芝 |
| 3 | 富士フイルム 【4901】 |
| 4 | 住友化学 【4005】 |
| 5 | パナソニックIP |
| 6 | 三菱ケミカル 【4188】 |
| 7 | カネカ 【4188】 |
| 8 | シャープ 【6753】 |
| 9 | リコー 【7752】 |
| 10 | パナソニック 【6757】 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
ペロブスカイト太陽電池に関する技術が対象です。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) FI「H01L H02S H10F H10K」
検索項目(ⅱ) 請求の範囲「ペロブスカイト」
検索項目(ⅲ) 明細書「太陽」
検索条件:検索条件(ⅰ) AND 検索条件(ⅱ) AND 検索条件(ⅲ)
日付指定:出願日 20000101~20221231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2022年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

出願人の数、総出願件数ともに時間経過に従って増加しています。
太陽光発電全般で調べた先の記事では、出願人の数、総出願件数ともに2008年-2015年の期間が最大で山なりだったのとは対照的です。
前回記事の調査結果が山なりグラフだった理由をあれこれ考えましたが、単に太陽電池全般を対象範囲にするとブームを過ぎた技術が大量に含まれるだけだったのかもしれません。
各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人16のうち上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| アイファイアー・テクノロジー | 0.4 件/年 |
| セイコーエプソン | 0.3 件/年 |
| 日産自動車 | 0.3 件/年 |
| 豊田中央研究所 | 0.3 件/年 |
| アイクストロン | 0.1 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人数78のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| 積水化学工業 | 2.9 件/年 |
| 富士フイルム | 2.1 件/年 |
| ペクセル・テクノロジーズ | 1.4 件/年 |
| 東芝 | 1.3 件/年 |
| 住友化学 | 1.0 件/年 |
(3)2016年~2022年
出願人数210のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| 積水化学工業 | 11 件/年 |
| 東芝 | 4.9 件/年 |
| 住友化学 | 4.7 件/年 |
| パナソニックIP | 4.3 件/年 |
| 三菱ケミカル | 4.3 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2022年 | |
| 1 | アイファイアー・テクノロジー (0.4 件/年) |
積水化学工業 (2.9 件/年) |
積水化学工業 (11 件/年) |
| 2 | セイコーエプソン (0.3 件/年) |
富士フイルム (2.1 件/年) |
東芝 (4.9 件/年) |
| 3 | 日産自動車 (0.3 件/年) |
ペクセル・テクノロジーズ (1.4 件/年) |
住友化学 (4.7 件/年) |
| 4 | 豊田中央研究所 (0.3 件/年) |
東芝 (1.3 件/年) |
パナソニックIP (4.3 件/年) |
| 5 | アイクストロン (0.1 件/年) |
住友化学 (1.0 件/年) |
三菱ケミカル (4.3 件/年) |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

どの企業も時間と共に平均出願件数を増加させています。
件数は多くないですが、ペロブスカイト太陽電池の開発に注力していることがうかがえます。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2022年 | ||
| 1 | 積水化学工業 | 0.0 件/年 (0.0%) |
2.9 件/年 (12.1%) |
11 件/年 (10.8%) |
| 2 | 東芝 | 0.0 件/年 (0.0%) |
1.3 件/年 (5.3%) |
4.9 件/年 (4.6%) |
| 3 | 富士フイルム | 0.0 件/年 (0.0%) |
2.1 件/年 (8.9%) |
3.7 件/年 (3.5%) |
| 4 | 住友化学 | 0.1 件/年 (4.3%) |
1.0 件/年 (4.2%) |
4.7 件/年 (4.5%) |
| 5 | パナソニックIP | 0.0 件/年 (0.0%) |
0.0 件/年 (0.0%) |
4.3 件/年 (4.1%) |
| 6 | 三菱ケミカル | 0.0 件/年 (0.0%) |
0.0 件/年 (0.0%) |
4.3 件/年 (4.1%) |
| 7 | カネカ | 0.0 件/年 (0.0%) |
0.3 件/年 (1.1%) |
2.9 件/年 (2.7%) |
| 8 | シャープ | 0.0 件/年 (0.0%) |
0.1 件/年 (0.5%) |
2.1 件/年 (2.0%) |
| 9 | リコー | 0.0 件/年 (0.0%) |
0.6 件/年 (2.6%) |
1.6 件/年 (1.5%) |
| 10 | パナソニック | 0.0 件/年 (0.0%) |
0.1 件/年 (0.5%) |
2.0 件/年 (1.9%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
今回は海外企業で占められましたが、日本の出願データのみで評価します。
①開発開始時期
2000年-2007年には住友化学が出願しています(最初の出願は2007年)。
②開発の継続性
全企業が最初の出願をおこなった期間から継続的に出願しています。
③開発成果
トータル出願件数では積水化学工業が2位に倍以上あります。
トータル出願件数は以下のとおりです。
<表6>
| 積水化学工業 | 103 件 |
| 東芝 | 44 件 |
| 富士フイルム | 43 件 |
| 住友化学 | 42 件 |
| パナソニックIP | 30 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・住友化学
②開発の継続性・・・10社に大差なし
③開発成果・・・積水化学工業がリード
トータル的には、開発成果で抜け出している積水化学工業が評価できます。
これらをまとめると以下のとおりです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | 積水化学工業 【4204】 | 〇 | 103 件 (10.8%) |
|
| 2 | 東芝 | 〇 | 44 件 (4.6%) |
|
| 3 | 富士フイルム 【4901】 | 〇 | 43 件 (4.5%) |
|
| 4 | 住友化学 【4005】 | 〇 | 〇 | 42 件 (4.4%) |
| 5 | パナソニックIP マネジメント | 〇 | 30 件 (3.2%) |
|
| 6 | 三菱ケミカル 【4188】 | 〇 | 30 件 (3.2%) |
|
| 7 | カネカ 【4188】 | 〇 | 22 件 (2.3%) |
|
| 8 | シャープ 【6753】 | 〇 | 16 件 (1.7%) |
|
| 9 | リコー 【7752】 | 〇 | 16 件 (1.7%) |
|
| 10 | パナソニック 【6757】 | 〇 | 15 件 (1.6%) |
|
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は最初の出願から各期間における出願の継続が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
5.ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 ペロブスカイト太陽電池とは?
ペロブスカイト太陽電池とは、ペロブスカイト構造という特定の結晶構造を持つ物質群(材料)が発電層として用いられた次世代型の太陽電池です。
従来のシリコン系太陽電池と同等以上の変換効率があり、薄膜、軽量で、建材一体化などの応用が期待されています。
一般的に以下の特徴(メリット、デメリット)があると言われています。
<表8>
| メリット | 高いエネルギー変換効率の可能性 | 薄膜でも効率的に光を吸収でき、材料組成を変えることで吸収する光の波長を調整しやすい |
| 軽量性・柔軟性 | 薄膜で製造できるため、軽量で曲げられる基板にも適用可能 | |
| 低温プロセスでの製造 | 従来のシリコン太陽電池よりも低い温度で製造可能 | |
| 低コストの可能性 | 材料費や製造プロセスが比較的安価であると期待される | |
| デメリット | 耐久性の課題 | 湿気、熱、酸素などに対して安定性が低い |
| 鉛の毒性 | 多くの高性能なペロブスカイト材料に鉛が含まれており、環境・健康への懸念 | |
| 大規模生産の技術的課題 | 均一な高品質の薄膜を大面積で安定して製造する技術、耐久性を向上させるための効果的な封止技術が確立途上 | |
| 長期信頼性の評価が不十分 | 長期的な性能劣化に関するデータが少なく、一部の材料では紫外線による劣化の報告も |
5.2 ペロブスカイト構造とは?
ペロブスカイト構造は、特定の結晶構造を持つ物質群を指します。
基本的な化学式は ABX₃で表され、この構造では以下のような原子配置をとります。
Aサイト
通常、比較的大きなサイズの陽イオン(例:アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機アンモニウムイオンなど)が配置されます。
Bサイト
通常、比較的小さめの金属陽イオン(例:遷移金属、鉛、スズなど)が配置されます。
Xサイト
通常、陰イオン(例:酸素、ハロゲン元素など)が配置され、Bサイトの金属イオンを取り囲むように八面体を形成します。
このABX₃型の基本構造においてA、B、Xにさまざまな元素や分子の組み合わせにより多様な特性を持つペロブスカイト材料が合成できます。
特に、太陽電池の分野で注目されているのは有機無機ハイブリッドペロブスカイトと呼ばれる材料で、Aサイトに有機アンモニウムイオン、Bサイトに鉛などの金属イオン、Xサイトにハロゲン元素(ヨウ素、臭素、塩素など)が配置されたものが研究されています(例:CH₃NH₃PbI₃)。
ペロブスカイト構造の大きな特徴としてはその柔軟性が挙げられます。
構成イオンの種類やサイズを変えることで、結晶構造のわずかな歪みや変形が生じやすく、これにより材料の電気的・磁気的・光学的特性が大きく変化することがあります。
この特性がペロブスカイト太陽電池の高い光吸収率や電荷輸送能力に繋がっています。
5.3 ペロブスカイト太陽電池の基本構造はシリコン太陽電池と同じか?
先の記事の紹介の通り、通常の太陽電池の材料としてp型半導体とn型半導体が重ね合わせが用いられていました。
先の記事: 【特許銘柄/太陽電池1】太陽電池の特許出願動向から選定した主要企業10選 5.1 太陽電池とは
ペロブスカイト太陽電池の基本構造は通常のシリコン系太陽電池と上記と異なります。
ペロブスカイト太陽電池はペロブスカイト層と呼ばれる光吸収層が主役となります。
この層に光が吸収されると電子と正孔が生成されます。
そして、この電荷を効率的に輸送するためにペロブスカイト層の両側に電子輸送層(ETL: Electron Transport Layer)と正孔輸送層(HTL: Hole Transport Layer)と呼ばれる層が配置されます。
ただし、研究開発が進む中でペロブスカイト層とシリコン系太陽電池を組み合わせたタンデム型太陽電池も注目されています。この場合、シリコン層にはpn接合が存在し、ペロブスカイト層と協調して光を吸収し、発電効率の向上を目指します。
<ペロブスカイト太陽電池の基本的な動作原理>
(1)光吸収
ペロブスカイト層が太陽光を効率的に吸収し、電子と正孔の対を生成します。
(2)電荷分離
生成された電子は電子輸送層へ、正孔は正孔輸送層へと移動します。ペロブスカイト層自体が比較的高いキャリア移動度を持つため、効率的な電荷分離が可能です。
(3)電荷輸送
それぞれの輸送層は特定の電荷(電子または正孔)を選択的に電極まで輸送します。
(4)集電
輸送された電子と正孔はそれぞれの電極で集められ、外部回路に電流として取り出されます。
5.4 ペロブスカイト太陽電池ならではの用途
ペロブスカイト太陽電池の進展が期待される分野として以下が挙げられます。
これらの分野ではペロブスカイト太陽電池の持つ軽量性、柔軟性、薄膜性、高い光吸収率、低温プロセスでの製造といった特性が活かされます。
・建材一体型太陽光発電
従来の太陽電池は主に屋根への設置が前提でしたが、建物の壁面や窓ガラスなど、曲面や垂直面への設置は重量や意匠性の問題がありました。
ペロブスカイト太陽電池は軽量で柔軟性があり、デザインの自由度も高いため、建物の壁、窓ガラス、外装材などへの一体化による発電スペースを創出できます。
・モバイル機器・ウェアラブルデバイス
従来のシリコン太陽電池は硬く、厚みがあり、重量もあるため小型化・軽量化が求められるモバイル機器やウェアラブルデバイスへの搭載にはハードルがありました。
ペロブスカイト太陽電池は薄膜で軽量かつ柔軟に製造できるため、スマートウォッチ、スマートグラス、モバイルバッテリー、ウェアラブルセンサーなどの電源として組み込みが期待されています。
・低照度環境での発電
従来のシリコン太陽電池は強い太陽光の下での発電効率が高い一方、室内光や曇りの日などの低照度環境下では発電効率が大きく低下する傾向がありました。
ペロブスカイト太陽電池は可視光の広い波長範囲で高い光吸収率を示すため、室内光や散乱光などの弱い光でも比較的高い効率で発電が期待されます。
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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・産総研 https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20221124.html・
・化学と教育 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/66/7/66_346/_pdf/-char/j
・宇宙科学研究所 https://www.isas.jaxa.jp/feature/forefront/220527.html
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