現在のエネルギー供給の主流は依然として化石燃料です。
しかし、長期的に見て化石燃料は枯渇する運命にあります。
気候変動問題への対応と資源の有限性から脱化石燃料へのシフトは避けられません。
1000年先や1万年先は、もはや主要なエネルギー源ではなくなっているでしょう(?)
すなわち、原子力関連の技術はこの先の人類にとって外せない選択肢の一つだと言えるのかもしれません。
原子力関連の技術開発において有望な企業はどこなのか?
特許出願件数から探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)
| 1 | 東芝 |
| 2 | 三菱重工業 【7011】 |
| 3 | 日立GEニュークリア・エナジー |
| 4 | 日立製作所 【6501】 |
| 5 | 原子燃料工業 |
| 6 | ウエスチングハウス・エレクトリック |
| 7 | IHI 【7013】 |
| 8 | ジーイー-ヒタチ・ニュークリア・エナジー・アメリカズ |
| 9 | 日本原子力研究開発機構 |
| 10 | ゼネラル・エレクトリック 【GE】 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
核融合炉、原子炉、原子力プラント、化学元素の変換、放射線源、放射線源からのエネルギーの取得等に関連する技術が対象です。
本記事では、核分裂の利用においてよく使われる「原子力」という言葉を用いています。ここでは、核融合や核分裂といった区別はしていません。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) FI「G21B G21C G21D G21G G21H G21J」
検索条件:検索条件(ⅰ)
日付指定:出願日 20000101~20231231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

出願人の数、総出願件数ともに直近では減少しています。
各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数538のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| 東芝 | 139 件/年 |
| 三菱重工業 | 69 件/年 |
| 日立製作所 | 60 件/年 |
| 原子燃料工業 | 37 件/年 |
| 日立GEニュークリア・エナジー | 35 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人数541のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| 東芝 | 123 件/年 |
| 日立GEニュークリア・エナジー | 100 件/年 |
| 三菱重工業 | 82 件/年 |
| ジーイー-ヒタチ・ニュークリア・エナジー | 18 件/年 |
| ウエスチングハウス・エレクトリック | 18 件/年 |
(3)2016年~2023年
出願人数535のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| 日立GEニュークリア・エナジー | 63 件/年 |
| 三菱重工業 | 49 件/年 |
| 東芝 | 32 件/年 |
| ウエスチングハウス・エレクトリック | 12 件/年 |
| ジーイー-ヒタチ・ニュークリア・エナジー | 9 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2023年 | |
| 1 | 東芝 (139 件/年) |
東芝 (123 件/年) |
日立GEニュークリア・エナジー (63 件/年) |
| 2 | 三菱重工業 (69 件/年) |
日立GEニュークリア・エナジー (100 件/年) |
三菱重工業 (49 件/年) |
| 3 | 日立製作所 (60 件/年) |
三菱重工業 (82 件/年) |
東芝 (32 件/年) |
| 4 | 原子燃料工業 (37 件/年) |
ジーイー-ヒタチ・ニュークリア・エナジー (18 件/年) |
ウエスチングハウス・エレクトリック (12 件/年) |
| 5 | 日立GEニュークリア・エナジー (35 件/年) |
ウエスチングハウス・エレクトリック (18 件/年) |
ジーイー-ヒタチ・ニュークリア・エナジー (9.1 件/年) |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

上図全期間中、全10社が直近では平均出願件数が減少しています。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2023年 | ||
| 1 | 東芝 | 139 件/年 (22%) |
123 件/年 (21%) |
32 件/年 (8.6%) |
| 2 | 三菱重工業 | 69 件/年 (11%) |
82 件/年 (14%) |
49 件/年 (13%) |
| 3 | 日立GEニュークリア・エナジー | 35 件/年 (5%) |
100 件/年 (17%) |
63 件/年 (17%) |
| 4 | 日立製作所 | 60 件/年 (9.4%) |
13 件/年 (2.2%) |
7.0 件/年 (1.9%) |
| 5 | 原子燃料工業 | 37 件/年 (5.8%) |
8.1 件/年 (1.4%) |
1.0 件/年 (0.3%) |
| 6 | ウエスチングハウス・エレクトリック | 5.0 件/年 (0.8%) |
18 件/年 (2.9%) |
12 件/年 (3.2%) |
| 7 | IHI | 19 件/年 (3.0%) |
8.1 件/年 (1.4%) |
2.6 件/年 (0.7%) |
| 8 | ジーイー-ヒタチ・ニュークリア・エナジー・アメリカズ | 0 件/年 (0.0%) |
18 件/年 (3.0%) |
9.1 件/年 (2.5%) |
| 9 | 日本原子力研究開発機構 | 17 件/年 (2.6%) |
10 件/年 (1.7%) |
0 件/年 (0.0%) |
| 10 | ゼネラル・エレクトリック | 21 件/年 (3.2%) |
2.9 件/年 (0.5%) |
0.8 件/年 (0.2%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
9社(ジーイー-ヒタチ・ニュークリア・エナジー・アメリカズ以外)が2000年-2007年には出願しています。
②開発の継続性
8社(ジーイー-ヒタチ・ニュークリア・エナジー・アメリカズと日本原子力研究開発機構以外)が全期間で出願しており、また、ジーイー-ヒタチ・ニュークリア・エナジー・アメリカズは2008年-2015年以降、継続的に出願しています。
③開発成果
東芝の増加が最も多いです。
トータル出願件数は以下の通りです。
<表6>
| 東芝 | 2352 件 |
| 三菱重工業 | 1592 件 |
| 日立GEニュークリア・エナジー | 1583 件 |
| 日立製作所 | 641 件 |
| 原子燃料工業 | 372 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・9社(ジーイー-ヒタチ・ニュークリア・エナジー・アメリカズ以外)が早くから出願
②開発の継続性・・・9社(日本原子力研究開発機構以外)が継続的に出願
③開発成果・・・東芝が最多出願
上記①、②の観点だと8社(ジーイー-ヒタチ・ニュークリア・エナジー・アメリカズと日本原子力研究開発機構以外)の開発力はいずれも評価できます。
上記③の観点も含めると相対的に東芝の開発力が高いと評価できます。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | 東芝 | 〇 | 〇 | 2352 件 (18%) |
| 2 | 三菱重工業 【7011】 | 〇 | 〇 | 1592 件 (12%) |
| 3 | 日立GEニュークリア・エナジー | 〇 | 〇 | 1583 件 (12%) |
| 4 | 日立製作所 【6501】 | 〇 | 〇 | 641 件 (5.0%) |
| 5 | 原子燃料工業 | 〇 | 〇 | 372 件 (2.9%) |
| 6 | ウエスチングハウス・エレクトリック | 〇 | 〇 | 273 件 (2.1%) |
| 7 | IHI 【7013】 | 〇 | 〇 | 238 件 (1.9%) |
| 8 | ジーイー-ヒタチ・ニュークリア・エナジー・アメリカズ | 〇 | 216 件 (1.7%) |
|
| 9 | 日本原子力研究開発機構 | 〇 | 214 件 (1.7%) |
|
| 10 | ゼネラル・エレクトリック 【GE】 | 〇 | 〇 | 195.0 件 (1.5%) |
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
5.ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
以下において、原子力に関して「核分裂」と「核融合」という方式で区別しました。
「核分裂」は原子量の大きいウラン235やプルトニウム239といった重い原子核を分裂させてエネルギーを取り出す方式です。すでに実用化されている一方、放射性廃棄物の問題を抱えてます。
「核融合」では原子量の軽い重水素や三重水素と言われる水素同位体を融合させてよりクリーンに大きなエネルギーが得られます。技術的に難しくまだ実用化されていません。
5.1 化石燃料との比較
(1)使用可能年数
①化石燃料(石油・石炭・天然ガス)
数10年~100年程度だと言われています。
②核分裂のためのウラン
可採年数は数十年〜100年程度だと言われています。
ただし、高速増殖炉などの実用化により数1000年に延びると言われています。
③核融合のための重水素
海水中にあり、ほぼ無尽蔵です。
(2)技術的特徴
①化石燃料
技術成熟度が高く、発電・輸送・貯蔵インフラが整っています。
ただしCO₂排出による地球温暖化が大きな問題です。
また、燃焼効率は限界に近く、大幅な改善余地は少ないと言えます。
②核分裂による原発
すでに商業的には確立しており、燃料1gで石油数トン相当する発電効率です。
放射性廃棄物の処理、事故リスクが大きな問題です。
小型モジュール炉やトリウム炉など新技術で安全性向上が期待されます。
③核融合による原発
実用化途上です。
燃料は豊富で反応自体は持続的暴走の心配がなく安全性が高いとされています。
5.2 核分裂、核融合の技術課題など
(1)核分裂
次世代の核分裂炉として、高速増殖炉、溶融塩炉、トリウム炉が挙げられます。
・高速増殖炉
核分裂で生じた余剰中性子を利用してプルトニウムを増殖させ燃料効率を高める炉
・溶融塩炉
燃料を溶融塩に溶かして効率と安全性を向上させる炉
・トリウム炉
豊富なトリウム232を燃料源としてウラン233を生成して利用する炉(※)
※トリウムは地球上にウランよりも多く存在し、高速炉ほど過熱リスクが少なく(冷却管理が容易になる)、プルトニウム生成が少なく(廃棄物低減)、生成されるウラン233の兵器利用が難しい(核拡散防止)という点で有利とされています。
以下、各炉の比較です(表8)。
<表8>
| 炉型 | 燃料 | 冷却材 | 特徴 | 技術課題 | 利点 |
| 高速増殖炉 | ウラン238、プルトニウム239 | 液体ナトリウム(高熱伝導で高速中性子炉の冷却効率が高く、炉心温度制御が可能) | 高速中性子で燃料を増殖し効率向上 | ナトリウムの化学的危険性、高速中性子による材料損傷、安全性設計 | ウラン資源の有効利用、燃料供給効率向上 |
| 溶融塩炉 | ウラン235、ウラン238、トリウム232を溶融塩に溶かして使用 | 溶融塩(燃料兼冷却材として循環させ、高温運転でも大気圧で安全に熱を運べる) | 高温運転で発電効率向上、炉心液体循環 | 塩による材料腐食、実証炉不足、燃料処理技術 | 大気圧運転で安全性向上、燃焼効率高く燃料供給柔軟 |
| トリウム炉 | トリウム232を燃料として使用 | 溶融塩や重水など(炉型により中性子減速や熱伝導に優れた冷却材を選択) | トリウムを利用して核分裂により発電 | トリウム燃料の取り扱い技術、炉設計の実用化 | 廃棄物量が少なく資源豊富、安全性向上 |
ここまでを整理すると、
・高速増殖炉は有限なウラン資源の活用の切り札的に短中期的に価値のある技術
・溶融塩炉は高効率・高安全性から長期的な次世代炉として有力な技術
・トリウム炉は廃棄物低減・資源持続性に優れるがまだ研究開発が中心の技術
といった感じでしょうか。
トリウム炉のその先の技術が核融合炉だと言えます。
(2)核融合
核融合炉は海水から豊富に得られる重水素やリチウムから生成される三重水素(トリチウム)と言われる軽い原子を高温高圧下で融合させ、ヘリウムと中性子を生成させ、このとき発生する莫大なエネルギーを利用します。
ただし、さまざまな技術課題があると言われています(以下、例示)。
・プラズマの安定閉じ込め
反応条件となる1億度以上の高温プラズマを閉じ込める必要あり
・エネルギー収支の実現
入力以上の出力を連続して得られるようにする必要あり
・トリチウム生成と管理
自然界にほとんど存在しないトリチウムを炉内で安定的に生成する必要あり
など
ちなみに、核融塩炉や核融合に関する特許出願は現時点で多くは確認されませんでした(多い出願人で出願件数がやっと2桁いく程度)。
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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
<留意事項>
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