前回、次世代電池の一つであるフロー電池に関わる特許銘柄について見ていきました。
前回記事:【特許銘柄/次世代電池2】レドックスフロー電池の特許出願動向から選定した主要企業10選
次世代電池と言われているものはまだ他にもあります。
今回は、その中の一つである空気電池に焦点をあてます。
空気電池に関して有望な企業はどこなのか?
特許出願件数から探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)
| 1 | 日産自動車 【7201】 |
| 2 | 日本碍子 【5333】 |
| 3 | 日本特殊陶業 【5334】 |
| 4 | トヨタ自動車 【7203】 |
| 5 | 日本電信電話 【9432】 |
| 6 | 東芝 |
| 7 | 大日本印刷 【7912】 |
| 8 | TOTO 【5332】 |
| 9 | シャープ 【6753】 |
| 10 | 東京瓦斯 【9531】 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
空気電池に関連する技術が対象です。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) 請求の範囲「空気電池 空気亜鉛電池 空気金属電池 金属空気電池 空気極」
検索項目(ⅱ) 請求の範囲「電池 バッテリ」
検索条件:検索条件(ⅰ) AND 検索条件(ⅱ)
日付指定:出願日 20000101~20231231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

出願件数、出願人数ともに2008年-2015年がピークです。
各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数198のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| 日産自動車 | 24 件/年 |
| 大日本印刷 | 14 件/年 |
| 東芝 | 13 件/年 |
| NTT | 9.9 件/年 |
| パナソニック | 9.6 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人数286のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| 日本碍子 | 27 件/年 |
| トヨタ自動車 | 18 件/年 |
| 日産自動車 | 17 件/年 |
| 日本特殊陶業 | 16 件/年 |
| NTT | 15 件/年 |
(3)2016年~2023年
出願人数262のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| 日本碍子 | 12.6 件/年 |
| 日本特殊陶業 | 8.4 件/年 |
| 東京瓦斯 | 7.8 件/年 |
| シャープ | 7.0 件/年 |
| トヨタ自動車 | 4.3 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2023年 | |
| 1 |
日産自動車 |
日本碍子 (27 件/年) |
日本碍子 (13 件/年) |
| 2 | 大日本印刷 (14 件/年) |
トヨタ自動車 (18 件/年) |
日本特殊陶業 (8.4 件/年) |
| 3 | 東芝 (13 件/年) |
日産自動車 (17 件/年) |
東京瓦斯 (7.8 件/年) |
| 4 | NTT (9.9 件/年) |
日本特殊陶業 (16.1 件/年) |
シャープ (7.0 件/年) |
| 5 | パナソニック (9.6 件/年) |
NTT (15 件/年) |
トヨタ自動車 (4.3 件/年) |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

2008年-2015年がピークの企業が多いです。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2023年 | ||
| 1 | 日産自動車 | 24 件/年 (12%) |
17 件/年 (6.5%) |
1.1 件/年 (0.7%) |
| 2 | 日本碍子 | 0.9 件/年 (0.4%) |
27 件/年 (10%) |
13 件/年 (8.4%) |
| 3 | 日本特殊陶業 | 6.5 件/年 (3.2%) |
16 件/年 (6.1%) |
8.4 件/年 (5.6%) |
| 4 | トヨタ自動車 | 7.1 件/年 (3.5%) |
18 件/年 (6.9%) |
4.3 件/年 (2.8%) |
| 5 | 日本電信電話 | 10 件/年 (4.9%) |
15 件/年 (5.7%) |
3.1 件/年 (2.1%) |
| 6 | 東芝 | 13 件/年 (6.4%) |
11 件/年 (4.0%) |
1.1 件/年 (0.7%) |
| 7 | 大日本印刷 | 14 件/年 (6.7%) |
7.1 件/年 (2.7%) |
0.1 件/年 (0.1%) |
| 8 | TOTO | 9.0 件/年 (4.4%) |
8.6 件/年 (3.3%) |
3.1 件/年 (2.1%) |
| 9 | シャープ | 1.1 件/年 (0.6%) |
6.8 件/年 (2.5%) |
7.0 件/年 (4.6%) |
| 10 | 東京瓦斯 | 3.9 件/年 (1.9%) |
2.3 件/年 (0.8%) |
7.8 件/年 (5.1%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
上表の全10社が既に2000年-2007年には出願しています。
②開発の継続性
全10社が全期間で出願を継続しています。
③開発成果
日産自動車が最も多く、次が僅差で日本碍子です。
トータル出願件数は以下の通りです。
<表6>
| 日産自動車 | 337 件 |
| 日本碍子 | 324 件 |
| 日本特殊陶業 | 248 件 |
| トヨタ自動車 | 237 件 |
| 日本電信電話 | 224 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・全10社ともに早くから開始
②開発の継続性・・・全10社ともに継続的
③開発成果・・・日産自動車がもっと多く、次が僅差で日本碍子
上記①の観点だと全10社が評価できます。
上記②の観点だと全10社が評価できます。
上記③の観点も含めると日産自動車と日本碍子が評価できます。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | 日産自動車 【7201】 | 〇 | 〇 | 337 件 (6.8%) |
| 2 | 日本碍子 【5333】 | 〇 | 〇 | 324 件 (6.5%) |
| 3 | 日本特殊陶業 【5334】 | 〇 | 〇 | 248 件 (5.0%) |
| 4 | トヨタ自動車 【7203】 | 〇 | 〇 | 237 件 (4.8%) |
| 5 | 日本電信電話 【9432】 | 〇 | 〇 | 224 件 (4.5%) |
| 6 | 東芝 | 〇 | 〇 | 197 件 (4.0%) |
| 7 | 大日本印刷 【7912】 | 〇 | 〇 | 167 件 (3.4%) |
| 8 | TOTO 【5332】 | 〇 | 〇 | 166 件 (3.4%) |
| 9 | シャープ 【6753】 | 〇 | 〇 | 119 件 (2.4%) |
| 10 | 東京瓦斯 【9531】 | 〇 | 〇 | 111 件 (2.2%) |
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
5 ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 空気電池とは?
通常の電池では、電極反応に関わる材料を電池内部に持っています。
例えば、従来のリチウムイオン電池として、負極が黒鉛、正極がLiCoO₂という構成が挙げられ、以下のような電極反応により発電します。
・従来のリチウムイオン電池の電極反応

これに対し、空気中の酸素を正極反応に利用することで発電するのが空気電池です。
以下は、負極を金属リチウム(Li)、正極を空気極とする空気電池の電極反応です。
・リチウム空気電池の電極反応

空気電池では正極の反応物として酸素を外部から取り込んで使います。
産総研のサイトにリチウム空気電池の概念図があります(以下のリンク先)。
リンク先の図が示すように、空気電池は酸素を外から取り入れて電極反応に利用するため、正極反応物質を充填する必要がなくなります(ただし、酸素を通過させ、電気を通す素材を空気極として利用するための工夫が必要)。
これにより、エネルギー密度(重量エネルギー密度:Wh/kg)が高い、すなわち、長持ちする電池として期待されています。
エネルギー密度は以下の式であらわされます。
エネルギー密度(Wh/kg)=起電力(V)×容量(Ah/kg)
★エネルギー密度は単位重量あたりに出せる電力量(Wh/kg)であらわされます。
★エネルギー密度が高いということは、電池が同じ重さでより多くの電力量(エネルギー)を蓄えたり放出できるということです。すなわち、電池の長時間動作、小型化、軽量化に有用だと言えます。
★空気電池が、空気の利用で軽量なこと、金属Liなど高容量負極を利用できること(従来のリチウムイオン電池の負極は金属Liではなく、Liを吸蔵する黒鉛などの材料)、などが高いエネルギー密度に寄与する要因として挙げられます。
5.2 空気電池のメリット、デメリットなど
<メリット>
・高エネルギー密度
空気電池は酸素を外部から取り込むため電池内部に酸化剤を持たず構成部材を減らすことができます。
これにより同重量で得られるエネルギーが大きくなります。
リチウム空気電池のエネルギー密度は理論値ではガソリンに匹敵し、リチウムイオンの10倍近いと言われています。
<デメリット>
・充電の困難さ
空気電池(特にリチウム空気電池)では充電が難しく、技術課題の一つになっています。
放電反応(Li+O₂→Li₂O₂)のあと、充電反応(Li₂O₂→Li+O₂)でリチウムと酸素に戻す必要がありますが、CO₂や水分との反応によりLi₂CO₃やLiOHなどの不要物ができると、電極が詰まって再充電できなくなります。
・空気極の劣化・設計の難しさ
空気電池では酸素だけ使いたいのに対し、空気中には余計なもの(水分、CO₂など)が含まれています。
空気極に水分、CO₂が混入すると反応性が低下します。こうした空気の管理が技術課題の一つになっています。
・デンドライト形成(Li金属の場合)
デンドライトとはリチウム金属負極から針状に成長するリチウムの突起物です。
デンドライトによる短絡や発火のリスクが挙げられます。
<その他>
・材料コスト
空気は無料、金属(ZnやAlなど)も比較的安価(特に亜鉛空気電池)であり、理論的には材料コストが有利になり得るという見方があります。
ただし、現実には、酸素の発生や還元を助ける触媒、高性能空気極などコスト高となる要因も多いと言われています。
総合的に見ると、空気電池は高エネルギー密度において魅力的である一方、解決すべき技術課題も多いと言えます。
何回充放電しても品質が保たれる空気電池の完成を待ちましょう。
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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
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