前回、水素の流通に関わる技術に関して取り上げました。
前回記事:【特許銘柄/水素技術5】水素の流通に関わる技術の特許出願動向から選定した主要企業10選
前回の記事では、水素を別の形(LOHCやアンモニア(NH₃))にする技術の将来性が期待されると紹介しました。
一方、水素(H)をそのままの形で貯蔵する水素吸蔵合金があります。
水素吸蔵合金の実現に向けて有望な企業はどこなのか?
特許出願件数から探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)(パナソニックの出願はパナソニックIPマネジメントに含めました)
| 1 | 三洋電機 |
| 2 | トヨタ自動車 【7203】 |
| 3 | パナソニックIPマネジメント |
| 4 | 本田技研工業 【7267】 |
| 5 | 産業技術総合研究所 |
| 6 | 日本製鋼所 【5631】 |
| 7 | FDK 【6955】 |
| 8 | 豊田自動織機 【6201】 |
| 9 | 東芝 |
| 10 | GSユアサ 【6674】 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
水素吸蔵合金に関する技術が対象です。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) 請求の範囲「水素吸蔵」
検索条件:検索条件(ⅰ)
日付指定:出願日 20000101~20231231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数275のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| 三洋電機 | 24 件/年 |
| パナソニック | 15 件/年 |
| トヨタ自動車 | 13 件/年 |
| 本田技研工業 | 12 件/年 |
| 日本製鋼所 | 7.9 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人数186のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| 三洋電機 | 9.0 件/年 |
| パナソニック | 8.0 件/年 |
| トヨタ自動車 | 6.5 件/年 |
| GSユアサ | 5.3 件/年 |
| FDK | 3.5 件/年 |
(3)2016年~2023年
出願人数169のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| トヨタ自動車 | 6.0 件/年 |
| FDK | 5.9 件/年 |
| 豊田自動織機 | 2.9 件/年 |
| 産業技術総合研究所 | 2.8 件/年 |
| クリーンプラネット | 2.6 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2023年 | |
| 1 | 三洋電機 (24 件/年) |
三洋電機 (9.0 件/年) |
トヨタ自動車 (6.0 件/年) |
| 2 | パナソニック (15 件/年) |
パナソニック (8.0 件/年) |
FDK (5.9 件/年) |
| 3 | トヨタ自動車 (13 件/年) |
トヨタ自動車 (6.5 件/年) |
豊田自動織機 (2.9 件/年) |
| 4 | 本田技研工業 (12 件/年) |
GSユアサ (5.3 件/年) |
産業技術総合研究所 (2.8 件/年) |
| 5 | 日本製鋼所 (7.9 件/年) |
FDK (3.5 件/年) |
クリーンプラネット (2.6 件/年) |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

全体的に減少傾向の中、FDKのみ出願件数が増えています。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2023年 | ||
| 1 | 三洋電機 | 24 件/年 (11%) |
9.0 件/年 (10%) |
0 件/年 (0.0%) |
| 2 | トヨタ自動車 | 13 件/年 (6.1%) |
6.5 件/年 (7.4%) |
6.0 件/年 (9.2%) |
| 3 | パナソニックIPマネジメント | 15 件/年 (7.1%) |
5.8 件/年 (6.5%) |
0.1 件/年 (0.2%) |
| 4 | 本田技研工業 | 12 件/年 (5.5%) |
0.6 件/年 (0.7%) |
0 件/年 (0.0%) |
| 5 | 産業技術総合研究所 | 27 件/年 (13%) |
6.4 件/年 (7.2%) |
0.1 件/年 (0.2%) |
| 6 | 日本製鋼所 | 7.9 件/年 (3.7%) |
2.5 件/年 (2.8%) |
1.0 件/年 (1.5%) |
| 7 | FDK | 0.1 件/年 (0.1%) |
3.5 件/年 (4.0%) |
5.9 件/年 (9.0%) |
| 8 | 豊田自動織機 | 4.4 件/年 (2.0%) |
2.0 件/年 (2.3%) |
2.9 件/年 (4.4%) |
| 9 | 東芝 | 5.9 件/年 (2.7%) |
1.0 件/年 (1.1%) |
1.9 件/年 (2.9%) |
| 10 | GSユアサ | 2.8 件/年 (1.3%) |
5.3 件/年 (6.0%) |
0.3 件/年 (0.4%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
全10社が2000年-2007年には出願しており、上記期間での大差はないと考えられます。
②開発の継続性
8社(三洋電機、本田技研工業以外)が全期間で出願を継続しています。
③開発成果
三洋電機が最も多く出願しており、開発成果が最も出ていると考えられます。
三洋電機の事業は、パナソニック、FDKなどに受け継がれていることが知られていますが、水素吸蔵合金に関してどのような処理がなされたのかは不明です(判断不可)。
トータル出願件数は以下の通りです。
<表6>
| 三洋電機 | 71 件 |
| トヨタ自動車 | 67 件 |
| パナソニックIPマネジメント | 52 件 |
| 本田技研工業 | 50 件 |
| 産業技術総合研究所 | 50 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・上位10社に大差なし
②開発の継続性・・・8社(三洋電機、本田技研工業以外)が継続的に開発
③開発成果・・・評価できませんでした。
上記①の観点だと上位企業の開発力はいずれも評価できます。
上記②の観点だと8社(三洋電機、本田技研工業以外)が評価できます。
上記③の観点では上述のとおり、評価できません。
ただし、2位以下の出願件数に大きな差はありません。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | 三洋電機 | 〇 | 71 件 (2.4%) |
|
| 2 | トヨタ自動車 【7203】 | 〇 | 〇 | 67 件 (2.3%) |
| 3 | パナソニックIPマネジメント | 〇 | 〇 | 52 件 (1.8%) |
| 4 | 本田技研工業 【7267】 | 〇 | 50 件 (1.7%) |
|
| 5 | 産業技術総合研究所 | 〇 | 〇 | 50 件 (1.7%) |
| 6 | 日本製鋼所 【5631】 | 〇 | 〇 | 44 件 (1.5%) |
| 7 | FDK 【6955】 | 〇 | 〇 | 42 件 (1.4%) |
| 8 | 豊田自動織機 【6201】 | 〇 | 〇 | 41 件 (1.4%) |
| 9 | 東芝 | 〇 | 〇 | 29 件 (1.0%) |
| 10 | GSユアサ 【6674】 | 〇 | 〇 | 28 件 (0.9%) |
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
5.ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 水素吸蔵合金とは?
水素吸蔵合金は、金属の中に原子レベルで取り込んで蓄える材料だと言えます。
すなわち、水素を気体として閉じ込めるのではなく、金属の中に原子レベルで取り込んで蓄える材料です。
水素吸蔵合金 M(=金属や合金)の化学的な反応式は以下の通りです。
(水素分子H₂が、表面で解離し(H–H結合が切れる)、原子状水素Hが金属内部へ拡散し、格子間にて安定化)
M+X/2 H2 ⇌ MHₓ
M:金属または合金(LaNi₅、TiFe、Mg系など)
MHₓ:金属水素化物
適度な結合エネルギーを持つ金属・合金が吸蔵材料になります。
以下、代表的な水素吸蔵合金です。
<表8>
| 系統 | 代表例 | 特徴 |
| 希土類系 | LaNi₅ | 低圧で吸蔵・放出、安定 |
| TiFe系 | TiFe | 安価、工業向き |
| Mg系 | MgH₂ | 容量大だが高温必要 |
| 多元系 | AB₂、AB₅型 | 特性調整しやすい |
5.2 水素吸蔵合金のメリット、デメリット
以下に水素吸蔵合金のメリットとデメリットを挙げます。
<メリット>
・低圧、高安全性(高圧ガスが不要、爆発、漏洩リスク低い)
・体積効率が高い(単位体積あたりの水素量は液体水素並み)
・充填、放出が速い(化学分解を伴わない)
・可逆反応、繰返し使用可(材料次第)
・水素純度が高い(不純物をほぼ取り込まない)
<デメリット>
・重い(重量エネルギー密度が低い、車両・航空・船舶では致命傷)
・材料コストが高い(大量普及には不向き)
・熱管理が難しい(熱交換器が必須、システムが複雑化)
・繰返しで粉化・劣化(寿命設計が必要)
5.3 水素吸蔵合金の将来性予測(AI)
水素吸蔵合金の将来性についてAIに予測させました。
まず、先の記事でとりあげた水素貯蔵、輸送技術(LOHCやアンモニア)と技術比較させました。
<表9>
| 水素吸蔵合金 | LOHC | アンモニア | |
| 安全性 | ◎ | ○ | △ |
| 重量効率 | ✕ | △ | ○ |
| 輸送距離 | 短距離 | 長距離 | 超長距離 |
| 規模 | 小~中 | 中~大 | 大 |
| 技術成熟 | 高 | 中 | 高 |
これを踏まえ、勝ち筋のある用途として以下が挙げられました。
・工場内水素バッファ
・再エネ変動吸収
・水素ステーションの低圧貯蔵
・無人設備・離島・地下設置
一方、勝てない用途は以下の通りでした。
・乗用車
・国際輸送
・発電所向け大量燃料
AIによると水素吸蔵合金は、水素社会の主役にはなれないニッチな基盤領域としては可能性がある、といったところでしょうか。
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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
<留意事項>
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