今回は眼科分野に関連する技術について取り上げます。
老化現象は人にとって宿命であり、さまざまな症状に直面します。
例えば、水晶体が濁る白内障は、医学的に見て80代以上は100%発症すると言われています。
人口数だけ治療の需要があると言えるのかもしれません。
白内障治療における眼内レンズの開発において有望な企業はどこなのか?
特許出願件数から探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
ここで、本記事における『有望企業』とは、対象技術の開発時期、継続性および蓄積の3指標から将来の市場独占や他社に対する参入障壁を築けると判断される上位企業(TOP10にランクインする企業)を指します。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)
・本命:アルコン 直近の出願に勢いがあります。
・対抗:ニデック 累計成果と長年の継続性においてアルコンに対抗しうる国内勢として評価できます。
| 1 | アルコン 【ALC】 |
| 2 | ニデック |
| 3 | HOYA 【7741】 |
| 4 | 興和 |
| 5 | ノバルティス 【NVS】 |
| 6 | スター・ジャパン |
| 7 | ボシュ・アンド・ロム 【BLCO】 |
| 8 | アボット・メディカル・オプティクス |
| 9 | ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア |
| 10 | メニコン 【7780】 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくることがあります。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
眼内レンズに関連する技術が対象です。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) FI「A61F A61L」
検索項目(ⅱ) 請求の範囲「レンズ」
検索項目(ⅲ) 明細書「白内障」
検索条件:検索条件(ⅰ) AND 検索条件(ⅱ)AND 検索条件(ⅲ)
日付指定:出願日 20000101~20231231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数168のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| スター・ジャパン | 5.4 件/年 |
| ニデック | 5.1 件/年 |
| アボット・メディカル・オプティクス | 4.4 件/年 |
| HOYA | 4.0 件/年 |
| ボシュ・アンド・ロム | 3.9 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人数186のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| ニデック | 9.4 件/年 |
| 興和 | 5.5 件/年 |
| ノバルティス | 5.4 件/年 |
| HOYA | 4.9 件/年 |
| アルコン | 4.0 件/年 |
(3)2016年~2023年
出願人数203のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| アルコン | 15 件/年 |
| ニデック | 5.6 件/年 |
| ノバルティス | 4.3 件/年 |
| 興和 | 2.6 件/年 |
| クラービスタ メディカル | 2.4 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2023年 | |
| 1 | スター・ジャパン (5.4 件/年) |
ニデック (9.4 件/年) |
アルコン (15 件/年) |
| 2 | ニデック (5.1 件/年) |
興和 (5.5 件/年) |
ニデック (5.6 件/年) |
| 3 | アボット・メディカル・オプティクス (4.4 件/年) |
ノバルティス (5.4 件/年) |
ノバルティス (4.3 件/年) |
| 4 | HOYA (4.0 件/年) |
HOYA (4.9 件/年) |
興和 (2.6 件/年) |
| 5 | ボシュ・アンド・ロム (3.9 件/年) |
アルコン (4.0 件/年) |
クラービスタ メディカル (2.4 件/年) |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

直近で出願件数を減少させている企業が多い中、アルコンの出願件数の伸びが大きいです。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2023年 | ||
| 1 | アルコン | 2.1 件/年 (3.5%) |
4.0 件/年 (5.2%) |
15 件/年 (18%) |
| 2 | ニデック | 5.1 件/年 (8.5%) |
9.4 件/年 (12%) |
5.6 件/年 (6.9%) |
| 3 | HOYA | 4.0 件/年 (6.6%) |
4.9 件/年 (6.4%) |
2.1 件/年 (2.6%) |
| 4 | 興和 | 2.1 件/年 (3.5%) |
5.5 件/年 (7.2%) |
3 件/年 (3.2%) |
| 5 | ノバルティス | 0.1 件/年 (0.2%) |
5.4 件/年 (7.0%) |
4.3 件/年 (5.2%) |
| 6 | スター・ジャパン | 5.4 件/年 (8.9%) |
0.8 件/年 (1.0%) |
0.0 件/年 (0.0%) |
| 7 | ボシュ・アンド・ロム | 3.9 件/年 (6.4%) |
0.9 件/年 (1.1%) |
0.4 件/年 (0.5%) |
| 8 | アボット・メディカル・オプティクス | 4.4 件/年 (7.2%) |
0.5 件/年 (0.7%) |
0 件/年 (0.0%) |
| 9 | ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア | 0 件/年 (0.0%) |
1.3 件/年 (1.6%) |
2.0 件/年 (2.4%) |
| 10 | メニコン | 1.5 件/年 (2.5%) |
0.8 件/年 (1.0%) |
0.9 件/年 (1.1%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
9社(ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア以外)が早期から出願しており、開発時期が早いと評価されます。
②開発の継続性
アルコン、ニデック、HOYA、ノバルティス、ボシュ・アンド・ロム、ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア、メニコンの8社が直近を含む2期間以上、継続的に出願しており、開発が継続的だと評価されます。
③開発成果
アルコンとニデックの出願件数が多く、開発成果がでていると評価されます。
トータル出願件数は以下の通りです。
<表6>
| アルコン | 167 件 |
| ニデック | 161 件 |
| HOYA | 88 件 |
| 興和 | 82 件 |
| ノバルティス | 78 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・9社(ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア以外)が早期から開発
②開発の継続性・・・アルコン、ニデック、HOYA、ノバルティス、ボシュ・アンド・ロム、ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア、メニコンの8社が継続的に開発
③開発成果・・・アルコンとニデックの成果が多い
上記①の観点だと9社(ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア以外)の開発力はいずれも評価できます。
上記②の観点だとアルコン、ニデック、HOYA、ノバルティス、ボシュ・アンド・ロム、ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア、メニコンの8社が評価できます。
上記③の観点だとアルコンとニデックが評価できます。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | アルコン 【ALC】 | 〇 | 〇 | 167 件 (9.5%) |
| 2 | ニデック | 161 件 (9.2%) |
||
| 3 | HOYA 【7741】 | 〇 | 〇 | 88 件 (5.0%) |
| 4 | 興和 | 〇 | 〇 | 82 件 (4.7%) |
| 5 | ノバルティス 【NVS】 | 〇 | 〇 | 78 件 (4.5%) |
| 6 | スター・ジャパン | 〇 | 〇 | 49 件 (2.8%) |
| 7 | ボシュ・アンド・ロム 【BLCO】 | 〇 | 41 件 (2.3%) |
|
| 8 | アボット・メディカル・オプティクス | 〇 | 〇 | 39 件 (2.2%) |
| 9 | ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア | 〇 | 26 件 (1.5%) |
|
| 10 | メニコン 【7780】 | 〇 | 25 件 (1.4%) |
|
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
以下、上記結果および結果の詳細を踏まえた総合評価と結論です。
<総合評価>
・アルコン
直近期間(2016-2023年)において他社が軒並み出願を停滞・減少させる中で、アルコンのみが年平均15件(シェア18%)と伸びを見せています。現在、最も開発リソースを集中させている独走銘柄であると推測されます。
・ニデック
累計件数ではアルコンに肉薄しており、2008-2015年には首位を獲得するなど、長期にわたり開発を継続しています。。
・その他(HOYA・興和など)
HOYAや興和は早期から継続的に開発をおこなっています。ただし、出願件数の推移からは爆発的な新規開発というよりも技術成熟的な傾向がうかがえます。
スター・ジャパンやアボット、ボシュ・アンド・ロムといった外資系企業は直近期間で出願をほぼ停止あるいは極端に減少させています。
<結論>
・本命:アルコン
直近の出願に勢いがあります。
・対抗:ニデック
累計成果と長年の継続性においてアルコンに対抗しうる国内勢として評価できます。
5.ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 白内障の治療に関わる市場
白内障は加齢に伴う現象であり、早いと40歳代から症状が始まります。80歳以上ではほぼ全員に何らかの白内障が見られる言われています。
参考:慶應義塾大学病院 白内障
日本では年間約160万件以上の白内障手術がおこなわれています。
眼内レンズ(IOL)は白内障手術の重要パートとして挙げられます。
5.2 眼内レンズの種類と将来性予測(AI予測)
眼内レンズの種類とそれぞれの技術課題や市場性についてAIに予測させてみました(下表)。
<表8>
| 分類 | 種類 | 技術的特徴 | メーカーの技術課題 | 技術難易度 | 市場将来性(投資視点) |
| 焦点数 | 単焦点 | 単一焦点設計、回折構造なし | 品質安定・コスト低減・大量生産 | 低 | 成熟市場、価格競争激化。利益率は低下傾向 |
| 〃 | 2焦点 | 回折構造で光を2分割 | ハロー・グレア低減 | 中 | 緩やか成長。3焦点やEDOFに押され気味 |
| 〃 | 3焦点 | 遠・中・近に回折分配 | コントラスト低下抑制 | 高 | 高付加価値市場。中長期で拡大 |
| 〃 | EDOF | 波面制御・焦点連続化 | 近方視力とハロー抑制の両立 | 非常に高 | 成長中核領域。技術力ある企業が有利 |
| 乱視補正 | トーリック単焦点 | 非対称光学設計 | 軸ズレ防止・回転安定性 | 中 | 需要安定、標準装備化へ |
| 〃 | トーリック多焦点 | 多焦点+乱視補正 | 回転+回折の複合最適化 | 非常に高 | 高収益ゾーン。大手寡占化しやすい |
| 〃 | トーリックEDOF | EDOF+乱視補正 | 設計・製造・臨床評価すべて難 | 最高 | 次世代主力候補。技術格差が株価差に直結 |
上表からは、眼内レンズ市場について、①単焦点の成熟領域、②多焦点、EDOF(遠くから中間距離までを連続して見えるようにしたレンズ)の成長領域、の2層構造が読み取れます。
ただし、多焦点・EDOF・トーリック(高機能型)は原則保険適用外で、レンズは自己負担となるので、誰もが気軽に選べるものではないことには注意が必要です。
医療・バイオ関連銘柄の記事:
【2025年版】がん早期検出関連銘柄10選|バイオマーカー技術
<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
<留意事項>
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