近年、暗号資産の基盤技術やその周辺技術の開発が活発になってきました。
分散型データベースに関する技術(本記事では「ブロックチェーン」という言葉で代表します)を土台技術として、ビットコインのような暗号資産が世間をにぎわせています。
暗号資産・ブロックチェーンに関連する技術開発に関わる有望な企業はどこなのか?
特許出願件数から探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)
| 1 | エヌチェーン ライセンシング |
| 2 | エヌチェーン ホールディングス |
| 3 | KDDI 【9433】 |
| 4 | 富士通 【6702】 |
| 5 | アスエネ |
| 6 | アリババ・グループ 【BABA】 |
| 7 | ソニー 【6758】 |
| 8 | 日立製作所 【6758】 |
| 9 | IBM 【6501】 |
| 10 | LINE |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくるものです。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
暗号資産・ブロックチェーン全般に関連する技術が対象です。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) FI「G06Q G06F H04L」
検索項目(ⅱ) 全文「暗号資産 仮想通貨 仮想資産 デジタル資産 ビットコイン イーサリアム NFT DeFi」
検索項目(ⅲ) 全文「ブロックチェーン 分散型台帳 DAG ハッシュグラフ」
検索条件:検索条件(ⅰ)AND 検索項目(ⅱ)AND 検索項目(ⅲ)
日付指定:出願日 20000101~20231231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

出願人数、出願件数ともに直近で急増しています。
各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数22のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| ソニー | 4.0 件/年 |
| マイクロソフト | 0.5 件/年 |
| バイオテクノロジー開発技術研究組合 | 0.4 件/年 |
| IBM | 0.3 件/年 |
| ビーエーエスエフ エンザイムズ | 0.3 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人数27のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| アビニシオ テクノロジー | 0.6 件/年 |
| コインパス | 0.4 件/年 |
| 室蘭工業大学 | 0.4 件/年 |
| イノジー イノヴァツィオン | 0.3 件/年 |
| クゥアルコム | 0.3 件/年 |
(3)2016年~2023年
出願人数1189のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| エヌチェーン ライセンシング | 35 件/年 |
| エヌチェーン ホールディングス | 31 件/年 |
| KDDI | 11 件/年 |
| アスエネ | 8.9 件/年 |
| アリババ・グループ | 8.9 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2023年 | |
| 1 | ソニー (4.0 件/年) |
アビニシオ テクノロジー (0.6 件/年) |
エヌチェーン ライセンシング (35 件/年) |
| 2 | マイクロソフト (0.5 件/年) |
コインパス (0.4 件/年) |
エヌチェーン ホールディングス (31 件/年) |
| 3 | バイオテクノロジー開発技術研究組合 (0.4 件/年) |
室蘭工業大学 (0.4 件/年) |
KDDI (11 件/年) |
| 4 | IBM (0.3 件/年) |
イノジー イノヴァツィオン (0.3 件/年) |
アスエネ (8.9 件/年) |
| 5 | ビーエーエスエフ エンザイムズ (0.3 件/年) |
クゥアルコム (0.3 件/年) |
アリババ・グループ (8.9 件/年) |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

多くが2016年-2023年の期間に出願件数を増やしています。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2023年 | ||
| 1 | エヌチェーン ライセンシング | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
39 件/年 (8.2%) |
| 2 | エヌチェーン ホールディングス | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
33 件/年 (6.9%) |
| 3 | KDDI | 0 件/年 (0.0%) |
0.3 件/年 (5.6%) |
10 件/年 (2.2%) |
| 4 | 富士通 | 0.1 件/年 (1.7%) |
0.5 件/年 (11.1%) |
8.5 件/年 (1.8%) |
| 5 | アスエネ | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
8.9 件/年 (1.9%) |
| 6 | アリババ・グループ | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
9.3 件/年 (2.0%) |
| 7 | ソニー | 4.0 件/年 (53.3%) |
0.3 件/年 (5.6%) |
4.6 件/年 (1.0%) |
| 8 | 日立製作所 | 0.1 件/年 (1.7%) |
0.4 件/年 (8.3%) |
6.3 件/年 (1.3%) |
| 9 | IBM | 0.3 件/年 (3.3%) |
0 件/年 (0.0%) |
5.4 件/年 (1.1%) |
| 10 | LINE | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
5.9 件/年 (1.2%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
富士通、ソニー、日立製作所、IBMの4社が2000年-2007年には出願しています。
②開発の継続性
KDDI、富士通、ソニー、日立製作所の4社が出願を継続しています(KDDIは2008年-2015年から出願継続)。
③開発成果
エヌチェーン ライセンシングの出願件数が最多です。
トータル出願件数は以下の通りです。
<表6>
| エヌチェーン ライセンシング | 312 件 |
| エヌチェーン ホールディングス | 260 件 |
| KDDI | 85 件 |
| 富士通 | 73 件 |
| アスエネ | 71 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・4社(富士通、ソニー、日立製作所、IBM)が早期から出願しています。
②開発の継続性・・・4社(KDDI、富士通、ソニー、日立製作所)の継続性が確認されます。
③開発成果・・・エヌチェーン ライセンシングがリードしています。
上記①の観点だと4社(富士通、ソニー、日立製作所、IBM)が評価できます。
上記②の観点だと4社(KDDI、富士通、ソニー、日立製作所)が評価できます。
上記③の観点だとエヌチェーン ライセンシングの開発力が評価できます。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | エヌチェーン ライセンシング | 312 件 (8.0%) |
||
| 2 | エヌチェーン ホールディングス | 260 件 (6.7%) |
||
| 3 | KDDI 【9433】 | 〇 | 85 件 (2.2%) |
|
| 4 | 富士通 【6702】 | 〇 | 〇 | 73 件 (1.9%) |
| 5 | アスエネ | 71 件 (1.8%) |
||
| 6 | アリババ・グループ 【BABA】 | 74 件 (1.9%) |
||
| 7 | ソニー 【6758】 | 〇 | 〇 | 71 件 (1.8%) |
| 8 | 日立製作所 【6758】 | 〇 | 〇 | 54 件 (1.4%) |
| 9 | IBM 【6501】 | 〇 | 45 件 (1.2%) |
|
| 10 | LINE | 47 件 (1.2%) |
||
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
5.ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 暗号資産とブロックチェーンの違い
ブロックチェーンという基盤技術を利用したデジタル通貨が暗号資産です。
例えるなら、
・ブロックチェーン=台帳技術
・暗号資産=ブロックチェーンの台帳技術を使ったデジタル通貨
だとイメージされます。
5.2 ブロックチェーンの技術的仕組み
ブロックチェーンは取引履歴を「ブロック」にまとめて鎖のようにつなぎ、改ざんできないように記録する仕組みです(以下の手順1~手順5)。
手順1 取引データの収集とブロック化
ネットワーク上でおこなわれた複数の取引データのまとまりが1つの「ブロック」に格納される。この際、取引データ全体から ハッシュ値(デジタル指紋) が生成されブロックに記録される。
手順2:新しいブロックの生成と連結
その後、新しい取引データのまとまりが次の新しいブロックに格納される。この新しいブロックには自分の取引データとそのハッシュ値に加えて直前のブロックのハッシュ値が組み込まれる。これにより前後のブロックが鎖のようにつながる仕組みが実現する。

手順3:承認と合意形成
ネットワークの参加者(ノードと言われるブロックチェーンのネットワークに参加しているコンピュータやサーバ)が合意形成アルゴリズム(例:PoW(※))を用いて、新しいブロックの正当性を検証し、承認する。
※ PoW(Proof of Work)はコンピュータが膨大な計算能力を使って競争し、勝者が取引を承認するという仕組み(この一連の作業は「マイニング」と言われる)
手順4:分散台帳の共有
承認されたブロックはネットワーク全体にコピーされ、参加者が同じ取引履歴を保持する。
手順5:改ざん防止
過去のブロックが1つでも書き換えられると、そのブロックのハッシュ値が変わり、以降すべてのブロックとの連結が崩れるため、改ざんは事実上不可能となる。
5.3 暗号資産(ビットコイン:BTC)の技術的仕組み
上記ブロックチェーンに基づく暗号資産の仕組みを以下(手順1~手順6)に示します。
手順1:取引発生
AさんがBさんに1BTCを送金
手順2:取引データの作成
・取引データ:送金元アドレス
・取引データ:送金先アドレス
・取引データ:送金額
・取引データ:デジタル署名
手順3:取引のブロック格納
作成された取引データが一つのブロックに格納
手順4:マイニング(PoW)
世界中のマイナー(新しいブロックを作成する役割を担うノード)が計算競争をおこないブロックを承認⇒承認されたマイナーには報酬として新規BTCが与えられる
手順5:ブロックチェーンに追加
承認されたブロックはチェーンに連結されて改ざんできない形で全ノードに共有
手順6:取引完了
Bさんが1BTCを受け取ったことが全世界的に記録されて誰でも検証可能
5.4 ブロックチェーンと暗号資産(ビットコイン)の関係
上記説明のブロックチェーンとビットコインの取引の関係を表で対比してみました(表8)。
<表8>
| 項目 | ブロックチェーンの仕組み | ビットコインとしての利用 |
| ① データ記録 | 取引や情報をブロック単位で記録 | 「Aさん→Bさんへ1BTC送金」の取引データを記録 |
| ② 連結構造 | 各ブロックをハッシュで鎖のように連結 | 承認済み取引が時系列に積み重なり「送金履歴台帳」となる |
| ③ 承認方法 | ネットワーク全体で合意形成(例:PoW) | マイナーが計算競争でブロックを承認(マイニング) |
| ④ 改ざん防止 | 過去ブロックを書き換えるのはほぼ不可能 | 「取引履歴の改ざん=不可能」なのでBTC送金の信頼が保たれる |
| ⑤ インセンティブ | なし(技術としては中立) | マイナーはブロック承認の報酬としてBTCを得る(※) |
| ⑥ 利用結果 | 安全・透明な記録台帳 | Bさんが1BTCを受け取ったことが全世界的に保証される |
※ マイナー(厳密にはマイニング作業をおこなったコンピュータの所有者)が受け取る手数料はネットワークから新規に発行されるビットコイン(ブロック報酬)と、ビットコインの取引を行う当事者がその取引をより早く承認してもらうためにマイナーに支払う手数料(取引手数料)の2種類あります。
繰返しになりますが、両者は「ブロックチェーン=台帳技術」であり、「ビットコイン=その台帳を使った通貨システム」と理解される関係だと言えます。
5.5 ブロックチェーン技術に伸びしろはあるのか?
ビットコインなどのデジタル通貨が改ざん不可能な技術だとすると、この土台となるブロックチェーンに関する技術は成熟していると言えるのでしょうか?(技術進歩が暗号資産の価値や関連銘柄の株価変動に与える余地はまだあるのでしょうか?)
ChatGPTは次にように回答しています。
回答1.ブロックチェーン技術の成熟度
(1)完成部分
・分散型台帳そのものの基本的な仕組み(ハッシュでの連結、PoW/PoSなどの合意形成、P2Pネットワークによる同期)は既に確立済み
・ビットコインやイーサリアムが10年以上安定稼働していることからも基盤技術としては成熟しているといえる。
(2)未完成部分
・スケーラビリティ(処理速度、トランザクション数の拡大)
・省エネ化(PoW→PoS、その他新しいコンセンサス)
・相互運用性(異なるブロックチェーン間の橋渡し)
・セキュリティ強化(量子耐性暗号など)
・実社会応用(金融以外の用途=サプライチェーン管理、医療データ、NFT、中央銀行デジタル通貨など)
回答2.株価上昇が見込まれる企業タイプ
ブロックチェーンそのものを作っている企業よりも、ブロックチェーンを応用して新しいビジネスを作れる企業の方が投資的には注目されやすい。
(1)株価上昇が見込まれるケース
・自社サービスにブロックチェーンを導入し、収益モデルを強化できる場合
例:金融(送金・決済)、物流(トレーサビリティ)、知財管理(著作権・特許管理)
・ブロックチェーン基盤を他社に提供し、業界標準を握れる場合
例:クラウド企業がブロックチェーン基盤をサービス化
・規制緩和や政府プロジェクトに採用される場合
例:中央銀行デジタル通貨(CBDC)関連
(2)株価が伸びにくいケース
・すでにビットコインなどの基盤部分の技術だけを提供している企業(コモディティ化しているため差別化しにくい)
・ブロックチェーンという名前だけで事業内容が不明瞭な企業(過去のブームでは投機的に一時的上昇したが持続しない傾向)
ChatGPTの回答1、回答2を受けて
上記回答によると、
・ビットコインの例のように基盤技術そのものはすでに成熟傾向
・これから成長余地が大きいのは応用、周辺技術
という感じです。
ビットコイン価格のように暗号資産の価格はその希少性によって変動するものなので、今後の技術の進歩とは関係がないと言えそうです(むしろ、量子コンピュータなどによる改ざん技術がでてきたらビットコインは大暴落?それとも、次は量子耐性を有する暗号が出てきてその暗号が爆上り?)。
ブロックチェーンを単なる送金手段にとどめず、契約やアプリケーションを実行できる基盤(プラットフォーム)の提供において、新技術の成長と活用が期待されます。
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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
・総務省 ブロックチェーンとは
・KDDI ブロックチェーンとは
<留意事項>
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