カーボンニュートラル社会の実現に向け、排出された二酸化炭素を資源として再利用する分離・回収・利用・貯留技術への期待が高まっています。
その中でも、二酸化炭素を有用な化学物質や燃料へと効率的に作り変える二酸化炭素変換触媒は、地球温暖化対策と持続可能なものづくりを両立させるための注目技術の一つとして挙げられます。
この領域において有望企業はどこなのか?
開発成果の裏付けとなる特許出願データから実態を探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
ここで、本記事における『有望企業』とは、対象技術の開発時期、継続性および蓄積の3指標から将来の市場独占や他社に対する参入障壁を築けると判断される上位企業(TOP10にランクインする企業)を指します。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)
<総合評価>
・全体的な出願規模
全対象期間を通じて各社の出願件数は2桁レベルと少なく、最多の企業でも累計64件にとどまっています。特定の企業が市場を圧倒支配するような技術的優位性を確立しているとは言えない状況です。
・ハネウェル
2008年以降、平均3.5件/年以上を維持しており、累計件数でも64件と最多です。本分野において最も安定した規模での出願推移が確認されます。
・日立製作所、新日鐵住金(日本製鉄)、東芝、大阪瓦斯
2000年代前半の初期段階から直近の期間にわたり、2期間以上継続して出願が行われています。日立製作所は累計41件と国内企業の中では頭一つ抜けた開発実績を有しています。
・豊田中央研究所、エルジー・ケム
初期(2000年〜2007年)の出願は見られず後発の立ち上がりですが、直近の期間(2016年〜2023年)にかけて出願件数を急激に伸ばしています。
・東京電力、三菱重工業
2000年代前半の初期段階においては上位に位置していましたが、直近の期間では出願件数が途絶えています。
<結論>
・本分野における特許出願数は各社ともに2桁レベルの低い水準に留まっており、出願件数の多寡のみから今後の決定的な優位性を判別することは困難な状況にあります。
・米国大手のハネウェル・インターナショナルが出願最多ほか、国内勢では日立製作所や新日鐵住金(日本製鉄)、東芝などが長期的な開発の継続性を示しています。また、直近では豊田中央研究所などが出願数を伸ばしています。
| 1 | ハネウェル・インターナショナル 【HON】 |
| 2 | 日立製作所 【6501】 |
| 3 | 新日鐵住金(日本製鉄) 【5401】 |
| 4 | 豊田中央研究所 |
| 5 | 東芝 |
| 6 | 大阪瓦斯 【9532】 |
| 7 | 東京電力 【9501】 |
| 8 | エルジー・ケム・リミテッド 【051910】 |
| 9 | ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア |
| 10 | 三菱重工業 【7011】 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくることがあります。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
CO2変換を目的とした触媒が対象です。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) 全文「温暖化 脱炭素 二酸化炭素変換 CO2変換」
検索項目(ⅱ) 請求の範囲「触媒」
検索項目(ⅲ) 請求の範囲「二酸化炭素 CO2」
検索条件:検索条件(ⅰ) AND(ⅱ) AND(ⅲ)
日付指定:出願日 20000101~20231231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数116のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| 日産自動車 | 1.6 件/年 |
| 三菱重工業 | 1.3 件/年 |
| 産業技術総合研究所 | 1.1 件/年 |
| 東京電力 | 1.0 件/年 |
| 島津製作所 | 0.6 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人186のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| ハネウェル・インターナショナル | 3.5 件/年 |
| 新日鐵住金 | 2.4 件/年 |
| 日立製作所 | 2.1 件/年 |
| ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア | 1.5 件/年 |
| 東京電力 | 1.1 件/年 |
(3)2016年~2023年
出願人229のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| ハネウェル・インターナショナル | 4.0 件/年 |
| 豊田中央研究所 | 3.4 件/年 |
| 日立製作所 | 2.5 件/年 |
| 大阪瓦斯 | 1.8 件/年 |
| 古河電気工業 | 1.6 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2023年 | |
| 1 | 日産自動車 (1.6 件/年) |
ハネウェル・インターナショナル (3.5 件/年) |
ハネウェル・インターナショナル (4.0 件/年) |
| 2 | 三菱重工業 (1.3 件/年) |
新日鐵住金 (2.4 件/年) |
豊田中央研究所 (3.4 件/年) |
| 3 | 産業技術総合研究所 (1.1 件/年) |
日立製作所 (2.1 件/年) |
日立製作所 (2.5 件/年) |
| 4 | 東京電力 (1.0 件/年) |
ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア (1.5 件/年) |
大阪瓦斯 (1.8 件/年) |
| 5 | 島津製作所 (0.6 件/年) |
東京電力 (1.1 件/年) |
古河電気工業 (1.6 件/年) |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

いずれの企業も出願件数は少ないです。その中ではハネウェル、豊田中央研究所、日立製作所の増加幅が大きいです。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2023年 | ||
| 1 | ハネウェル・インターナショナル | 0.5 件/年 (2.1%) |
3.5 件/年 (6.7%) |
4.0 件/年 (6%) |
| 2 | 日立製作所 | 0.5 件/年 (2.1%) |
2.1 件/年 (4.1%) |
2.5 件/年 (3.8%) |
| 3 | 新日鐵住金(日本製鉄) | 0.1 件/年 (0.5%) |
2.4 件/年 (4.6%) |
1.6 件/年 (2.4%) |
| 4 | 豊田中央研究所 | 0 件/年 (0.0%) |
0.1 件/年 (0.2%) |
3.4 件/年 (5.1%) |
| 5 | 東芝 | 0.5 件/年 (2.1%) |
1.0 件/年 (1.9%) |
1.6 件/年 (2.4%) |
| 6 | 大阪瓦斯 | 0.1 件/年 (0.5%) |
0.3 件/年 (0.5%) |
1.8 件/年 (2.6%) |
| 7 | 東京電力 | 1.0 件/年 (4.2%) |
1.1 件/年 (2.2%) |
0 件/年 (0.0%) |
| 8 | エルジー・ケム | 0 件/年 (0.0%) |
0.4 件/年 (0.7%) |
1.5 件/年 (2.3%) |
| 9 | ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア | 0.3 件/年 (1.1%) |
1.5 件/年 (2.9%) |
0.1 件/年 (0.2%) |
| 10 | 三菱重工業 | 1.3 件/年 (5.3%) |
0.6 件/年 (1.2%) |
0 件/年 (0.0%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
8社(豊田中央研究所、エルジー・ケム以外)が2000年-2007年に出願を開始しており、開発時期の早さがうかがえます。
②開発の継続性
8社(東京電力、三菱重工業以外)が直近を含む2期間以上で開発を継続していることがうかがえます。
③開発成果
ハネウェルの出願数が最も多く、開発成果がでていることがうかがえます。ただし、出願件数が64件とあまり多くはありません。
トータル出願件数は以下の通りです。
<表6>
| ハネウェル・インターナショナル | 64 件 |
| 日立製作所 | 41 件 |
| 新日鐵住金(日本製鉄) | 33 件 |
| 豊田中央研究所 | 28 件 |
| 東芝 | 25 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・8社(豊田中央研究所、エルジー・ケム以外)が早期に開発
②開発の継続性・・・8社(東京電力、三菱重工業以外)が継続的に開発
③開発成果・・・ハネウェルに多くの成果、ただし出願数が2桁レベル
上記①の観点だと8社(豊田中央研究所、エルジー・ケム以外)の開発力が評価できます。
上記②の観点だと8社(東京電力、三菱重工業以外)の開発力が評価できます。
上記③の観点だとハネウェルの開発力が高いと評価できます。ただし、出願件数が2桁レベルでの競争結果です。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | ハネウェル・インターナショナル 【HON】 | 〇 | 〇 | 64 件 (5.6%) |
| 2 | 日立製作所 【6501】 | 〇 | 〇 | 41 件 (3.6%) |
| 3 | 新日鐵住金(日本製鉄) 【5401】 | 〇 | 〇 | 33 件 (2.9%) |
| 4 | 豊田中央研究所 | 〇 | 28 件 (2.5%) |
|
| 5 | 東芝 | 〇 | 〇 | 25 件 (2.2%) |
| 6 | 大阪瓦斯 【9532】 | 〇 | 〇 | 17 件 (1.5%) |
| 7 | 東京電力 【9501】 | 〇 | 17 件 (1.5%) |
|
| 8 | エルジー・ケム・リミテッド 【051910】 | 〇 | 15 件 (1.3%) |
|
| 9 | ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア | 〇 | 〇 | 15 件 (1.3%) |
| 10 | 三菱重工業 【7011】 | 〇 | 15 件 (1.3%) |
|
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
以下、上記結果および結果の詳細を踏まえた総合評価と結論です。
<総合評価>
・全体的な出願規模
全対象期間を通じて各社の出願件数は2桁レベルと少なく、最多の企業でも累計64件に留まっています。特定の企業が市場を圧倒支配するような技術的優位性を確立しているとは言えない状況です。
・ハネウェル
2008年以降、平均3.5件/年以上を維持しており、累計件数でも64件と最多です。本分野において最も安定した規模での出願推移が確認されます。
・日立製作所、新日鐵住金(日本製鉄)、東芝、大阪瓦斯
2000年代前半の初期段階から直近の期間にわたり、2期間以上継続して出願が行われています。特に日立製作所は累計41件と国内企業の中では頭一つ抜けた開発実績を有しています。
・豊田中央研究所、エルジー・ケム
初期(2000年〜2007年)の出願は見られず後発の立ち上がりですが、直近の期間(2016年〜2023年)にかけて出願件数を急激に伸ばしています。
・東京電力、三菱重工業
2000年代前半の初期段階においては上位に位置していましたが、直近の期間では出願件数が途絶えています。
<結論>
・本分野における特許出願数は各社ともに2桁レベルの低い水準に留まっており、出願件数の多寡のみから今後の決定的な優位性を判別することは困難な状況にあります。
・米国大手のハネウェル・インターナショナルが出願最多ほか、国内勢では日立製作所や新日鐵住金(日本製鉄)、東芝などが長期的な開発の継続性を示しています。また、直近では豊田中央研究所などが出願数を伸ばしています。
5.ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 CO2変換触媒とは
地球温暖化の原因として知られCO2ですが、見方を変えると炭素(C)を含んだ資源にもなります。
プラスチックの原料となる化学物質や都市ガス・ジェット燃料などの人工燃料へと作り変える二酸化炭素変換技術の一つが二酸化炭素変換触媒です。
CO2は非常に安定した物質であるため、反応しやすい状態にする必要があります。
二酸化炭素変換触媒は、この効率よく変換させる仲介役になるものです。
5.2 変換触媒の主な役割と課題
主な役割としては、
・CO2の強固な結合をパッと切る(反応の壁を下げる)
・狙った物質だけをピンポイントで作る(選択性を高める)
・より低い温度・少ないエネルギーで反応を進める(省エネ化)
が挙げられます。
ただ、
・狙った有用物質だけを高確率かつ高純度で作り出す難しさ
・反応の過程で不純物によって触媒としての機能がすぐに失われてしまう問題
などがあります。
上記特許出願数の少なさは、このような難しさからくる技術ハードルの高さも要因として考えられます。
5.3 各技術要素と投資妙味
以下、AIに予測させた結果です(表8)。
<表8>
| 技術アプローチ | 技術課題の大きさ | 投資妙味 | 備考 |
| ① 選択性・高純度化技術(狙った物質だけを作る) | 大(極めて難) | ★★★★★ | CO2から余計な副産物(一酸化炭素など)を出さず、メタンやメタノールなど目的の物質だけをピンポイントで作る技術。ここをクリアした企業は市場を独占できる可能性あり。 |
| ② 長寿命化・耐被毒技術(触媒の劣化を防ぐ) | 大(極めて難) | ★★★★☆ | 反応中に炭素がこびりついたり(炭素析出)、不純物で触媒が使えなくなる(触媒毒)のを防ぐ技術。工場で24時間長期稼働させるための必須条件であり、実用化・商業化のフェーズでインパクトを与える要素。 |
| ③ 低温・低圧化技術(省エネで反応させる) | 中〜大 | ★★★★☆ | よりマイルドな条件(低温・低圧)で反応を進められる触媒は製造コストを下げるため、事業の採算性を左右する重要な評価軸となる。 |
| ④ 希少金属の削減・代替(貴金属から卑金属へ) | 中 | ★★★☆☆ | コスト削減のため鉄や銅、ニッケルなどの安価な金属(卑金属)で高性能を出す研究が進められている。資源リスクを回避する上で重要。 |
| ⑤ 光触媒・電解触媒技術(再エネとの融合) | 大(発展途上) | ★★★★☆ | 太陽光(人工光合成)や再エネ由来の電気を直接使ってCO2を変換する次世代触媒。将来的な大化けが期待される枠。 |
ボトルネックは選択性(上記①)、長寿命化(上記②)でしょうか。
<素材>
【2026年版】触媒銘柄10選|水電解・脱炭素・浄化技術(総合技術)
【2026年版】防錆・防食銘柄10選|シランカップリング技術
<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
<留意事項>
・本サイトでは、特許情報を正確かつ最新の状態でお伝えするよう努めていますが、情報の完全性を保証するものではありません。
・特許情報のご活用や解釈、投資判断などは読者ご自身の責任でお願いいたします。