カーボンニュートラル社会に向けて水素エネルギーの製造を担う水電解触媒が期待されれる技術の一つに挙げられます。
水電解は再生可能エネルギーを水素として貯蔵するために不可欠な技術であり、その変換効率や耐久性を左右する触媒の改良は、水素製造コストの低減に直結します。
この領域において有望企業はどこなのか?
開発成果の裏付けとなる特許出願データから実態を探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
ここで、本記事における『有望企業』とは、対象技術の開発時期、継続性および蓄積の3指標から将来の市場独占や他社に対する参入障壁を築けると判断される上位企業(TOP10にランクインする企業)を指します。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)
<総合評価>
・旭化成
2016年以降の期間において平均出願件数が5.0件/年(シェア11%)に達し、全期間の累計件数でも43件と最多です。直近の出願件数および増加幅において他社を上回る推移を示しています。
・トヨタ自動、パナソニック
2000年代前半から2023年まで継続して出願が確認されています。パナソニック(パナソニックIPマネジメントを含む)は累計34件、トヨタ自動車は累計39件の出願があり、長期的な開発実績を有しています。
・東レ、東芝、東京瓦斯、デノラ・ペルメレック
2016年から2023年の期間において、平均出願件数が1.3件/年以上となっており、直近の期間で開発成果が確認される出願人が自動車メーカー以外にも広がっています。
<結論>
・出願件数に基づく開発成果においては旭化成が累計および直近の推移ともに最多となっています。
・開発の開始時期と継続性においてはトヨタ自動車、東レ、東芝、本田技研工業、パナソニックが2000年代前半から出願を継続しており、20年以上の開発期間を有しています。
<結論>
| 1 | 旭化成 【3407】 |
| 2 | トヨタ自動車 【7203】 |
| 3 | 東レ 【3402】 |
| 4 | 東芝 |
| 5 | 本田技研工業 【7267】 |
| 6 | パナソニック 【6752】 |
| 7 | 豊田中央研究所 |
| 8 | パナソニックIPマネジメント |
| 9 | 東京瓦斯 【9531】 |
| 10 | デノラ・ペルメレック |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくることがあります。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
水電解を目的とした触媒が対象です。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) 請求の範囲「水電解」
検索項目(ⅱ) 請求の範囲「触媒」
検索条件:検索条件(ⅰ) AND(ⅱ)
日付指定:出願日 20000101~20231231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数47のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| パナソニック | 2.1 件/年 |
| トヨタ自動車 | 2.0 件/年 |
| 日産自動車 | 1.3 件/年 |
| 三菱重工業 | 0.8 件/年 |
| 豊田中央研究所 | 0.6 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人数75のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| 日本電信電話 | 1.3 件/年 |
| 豊田中央研究所 | 1.0 件/年 |
| 本田技研工業 | 1.0 件/年 |
| JSR | 0.9 件/年 |
| 神鋼環境ソリューション | 0.9 件/年 |
(3)2016年~2023年
出願人数135のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| 旭化成 | 5.0 件/年 |
| トヨタ自動車 | 2.5 件/年 |
| 東レ | 2.1 件/年 |
| 東芝 | 1.9 件/年 |
| パナソニックIPマネジメント | 1.8 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2023年 | |
| 1 | パナソニック (2.1 件/年) |
日本電信電話 (1.3 件/年) |
旭化成 (5.0 件/年) |
| 2 | トヨタ自動車 (2.0 件/年) |
豊田中央研究所 (1.0 件/年) |
トヨタ自動車 (2.5 件/年) |
| 3 | 日産自動車 (1.3 件/年) |
本田技研工業 (1.0 件/年) |
東レ (2.1 件/年) |
| 4 | 三菱重工業 (0.8 件/年) |
JSR (0.9 件/年) |
東芝 (1.9 件/年) |
| 5 | 豊田中央研究所 (0.6 件/年) |
神鋼環境ソリューション (0.9 件/年) |
パナソニックIPマネジメント (1.8 件/年) |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

多くが直近で件数を増やしています。その中で特に旭化成の増加幅が大きいです。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2023年 | ||
| 1 | 旭化成 | 0 件/年 (0.0%) |
0.4 件/年 (2.1%) |
5.0 件/年 (11%) |
| 2 | トヨタ自動車 | 2.0 件/年 (14%) |
0.4 件/年 (2.1%) |
2.5 件/年 (5.4%) |
| 3 | 東レ | 0.5 件/年 (3.5%) |
0.1 件/年 (0.7%) |
2.1 件/年 (4.6%) |
| 4 | 東芝 | 0.4 件/年 (2.7%) |
0.5 件/年 (2.8%) |
1.9 件/年 (4.1%) |
| 5 | 本田技研工業 | 0.6 件/年 (4.4%) |
1.0 件/年 (5.6%) |
1.0 件/年 (2.2%) |
| 6 | パナソニック | 2.1 件/年 (15%) |
0.3 件/年 (1.4%) |
0 件/年 (0.0%) |
| 7 | 豊田中央研究所 | 0.6 件/年 (4.4%) |
1.0 件/年 (5.6%) |
0.8 件/年 (1.6%) |
| 8 | パナソニックIPマネジメント | 0 件/年 (0.0%) |
0.1 件/年 (0.7%) |
1.8 件/年 (3.8%) |
| 9 | 東京瓦斯 | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
1.6 件/年 (3.5%) |
| 10 | デノラ・ペルメレック | 0 件/年 (0.0%) |
0.1 件/年 (0.7%) |
1.3 件/年 (2.7%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
トヨタ自動車、東レ、東芝、本田技研工業、パナソニック、豊田中央研究所が2000年-2007年に出願を開始しており、開発時期の早さがうかがえます。
②開発の継続性
9社(東京瓦斯以外)が直近を含む2期間以上で開発を継続していることがうかがえます(パナソニックはパナソニックIPマネジメント分をカウント)。
③開発成果
旭化成の出願数が最も多く、開発成果がでていることがうかがえます。ただし、出願件数は2桁で、2位のトヨタ自動車との件数は数件レベルです。
トータル出願件数は以下の通りです。表に記載されていませんが、パナソニックとパナソニックIPマネジメントを合計すると34件でトヨタ自動車の次に位置します。
<表6>
| 旭化成 | 43 件 |
| トヨタ自動車 | 39 件 |
| 東レ | 22 件 |
| 東芝 | 22 件 |
| 本田技研工業 | 21 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・トヨタ自動車、東レ、東芝、本田技研工業、パナソニック、豊田中央研究所が早期に開発
②開発の継続性・・・9社(東京瓦斯以外)が継続的に開発
③開発成果・・・旭化成に多くの成果、ただし、2位のトヨタ自動車と僅差
上記①の観点だとトヨタ自動車、東レ、東芝、本田技研工業、パナソニック(パナソニックIPマネジメント)、豊田中央研究所の開発力が評価できます。
上記②の観点だと9社(東京瓦斯以外)の開発力が評価できます。
上記③の観点だと旭化成の開発力が高いと評価できます。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | 旭化成 【3407】 | 〇 | 43 件 (6.9%) |
|
| 2 | トヨタ自動車 【7203】 | 〇 | 〇 | 39 件 (6.3%) |
| 3 | 東レ 【3402】 | 〇 | 〇 | 22 件 (3.5%) |
| 4 | 東芝 | 〇 | 〇 | 22 件 (3.5%) |
| 5 | 本田技研工業 【7267】 | 〇 | 〇 | 21 件 (3.4%) |
| 6 | パナソニック 【6752】 | 〇 | 〇 | 19 件 (3.0%) |
| 7 | 豊田中央研究所 | 〇 | 〇 | 19 件 (3.0%) |
| 8 | パナソニックIPマネジメント | 〇 | 〇 | 15 件 (2.4%) |
| 9 | 東京瓦斯 【9531】 | 13 件 (2.1%) |
||
| 10 | デノラ・ペルメレック | 〇 | 11 件 (1.8%) |
|
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
以下、上記結果および結果の詳細を踏まえた総合評価と結論です。
<総合評価>
・旭化成
2016年以降の期間において平均出願件数が5.0件/年(シェア11%)に達し、全期間の累計件数でも43件と最多です。直近の出願件数および増加幅において他社を上回る推移を示しています。
・トヨタ自動、パナソニック
2000年代前半から2023年まで継続して出願が確認されています。パナソニック(パナソニックIPマネジメントを含む)は累計34件、トヨタ自動車は累計39件の出願があり、長期的な開発実績を有しています。
・東レ、東芝、東京瓦斯、デノラ・ペルメレック
2016年から2023年の期間において、平均出願件数が1.3件/年以上となっており、直近の期間で開発成果が確認される出願人が自動車メーカー以外にも広がっています。
<結論>
・出願件数に基づく開発成果においては旭化成が累計および直近の推移ともに最多となっています。
・開発の開始時期と継続性においてはトヨタ自動車、東レ、東芝、本田技研工業、パナソニックが2000年代前半から出願を継続しており、20年以上の開発期間を有しています。
5.ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 水電解とは
水電解とは、水に電圧をかけることで、水(H2O)を水素(H2)と酸素(O2)に直接分解する技術のことです(反応:2H2O→2H2+O2)。
しかし実際には、水はかなり安定した物質で反応が進みにくいです。
そこで使われるのが触媒です。
5.2 水電解触媒とは
触媒の役割は、以下のようにイメージされます。
・水分子を反応しやすい状態にする
・電子の受け渡しを助ける
・反応の壁(活性化エネルギー)を下げる
つまり、触媒により、小さい電圧で反応を進めることができ、省エネになります。
ここで、水電解(2H2O→2H2+O2)は、以下の2種類の反応があります。
(1)水素発生反応(HER)
陰極(マイナス極)で起きます。
2H2O+2e−→H2+2OH−
これは、
・水から水素を作る
・電子を受け取る
反応です。これを助けるのがHER触媒です。
(2)酸素発生反応(OER)
陽極(プラス極)で起きます。
4OH−→O2+2H2O+4e−
これは、
・酸素を発生
・電子を放出
する反応です。これを助けるのがOER触媒です。
水電解で特に難しいのはOERです。
・電子移動が複雑
・反応段階が多い
・遅い反応
というのが理由として挙げられます。
つまり、OERがボトルネックであり、以下のような開発が挙げられます。
・高性能OER触媒
・安価OER触媒
・長寿命OER触媒
5.3 投資妙味等
目的、素材で分け、投資妙味をAIに予測させてみました。
<表8>
| 開発の主な目的 | 触媒素材 | 適用装置 (動作環境) |
技術的ハードル | 投資妙味 |
| 低コスト化・大型化 | ニッケル・コバルト系 | アルカリ型 (強アルカリ性) |
反応表面積の拡大と、長期稼働時の電極剥離防止 | ★★☆ |
| 高性能化・高効率化 | イリジウム系 | PEM型 (強酸性) |
高価な素材の使用量を極限まで減らす微量化技術 | ★★★ |
| 資源リスク回避 | 非貴金属系 (酸化物等) |
PEM型 |
酸性下での腐食・溶出を防ぐ圧倒的な化学的安定性 | ★★★ |
|
超高効率 |
セラミックス系 | SOEC型 (高温蒸気) |
800℃前後の高温下における熱劣化の抑制 | ★★☆ |
水電解の開発は、低コストなアルカリ型(水酸化カリウム等の電解質を溶かしたアルカリ水を用いる方式)、希少資源の制約克服が鍵となる高効率なPEM型(純水と固体高分子膜を用いて強酸性環境で動作する方式)が主戦場です。方式や素材により開発目的と投資妙味が異なります。
<素材>
【2026年版】触媒銘柄10選|水電解・脱炭素・浄化技術(総合技術)
【2026年版】防錆・防食銘柄10選|シランカップリング技術
<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
<留意事項>
・本サイトでは、特許情報を正確かつ最新の状態でお伝えするよう努めていますが、情報の完全性を保証するものではありません。
・特許情報のご活用や解釈、投資判断などは読者ご自身の責任でお願いいたします。