近代のあらゆる産業や社会インフラを支える上で、金属構造物の劣化を防ぐ防錆・防食技術は欠かすことのできない基盤技術だと言えます。
自動車、建築、エネルギーインフラなど、あらゆる分野で素材の長寿命化や安全性の確保が求められる中、防錆・防食の進化は資源の有効活用やメンテナンスコストの削減に直結する重要な役割を担っています。
この領域において有望企業はどこなのか?
開発成果の裏付けとなる特許出願データから実態を探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
ここで、本記事における『有望企業』とは、対象技術の開発時期、継続性および蓄積の3指標から将来の市場独占や他社に対する参入障壁を築けると判断される上位企業(TOP10にランクインする企業)を指します。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)
<総合評価>
・全体的な出願規模と推移
全対象期間を通じて上位企業は累計で数百件レベルの豊富な出願実績を有しており、技術としては成熟領域です。
・日本製鉄、JFEスチール
鉄鋼大手の2社が累計出願数でワンツーを占めており、本分野における技術的基盤を有していることがうかがえます。
・JX金属
2008年〜2015年の期間に平均18.6件/年と爆発的に出願を伸ばし、直近の期間でも平均9.4件/年で単独トップに立つなど、中長期にわたり活発な開発姿勢を維持しています。
・出光興産
上位10社の中で唯一、初期から直近の期間にかけて出願件数を右肩上がりに伸ばし続けており(直近は平均6.0件/年)、防錆・防食技術への注力がうかがえます。
<結論>
・本分野は、累計出願数が300件を超える企業が存在する成熟市場であり、日本製鉄やJFEスチール、JX金属といった素材・金属大手が市場をリードしています。
・全体としては出願数が減少傾向にあるの中で一貫して出願を伸ばしている企業(出光興産)もあります。
| 1 | 日本製鉄(新日鐵住金含む) 【5401】 |
| 2 | JFEスチール |
| 3 | JX金属(JX日光日石金属含む) 【5016】 |
| 4 | NTN 【6472】 |
| 5 | 日本精工 【6471】 |
| 6 | 関西ペイント 【4613】 |
| 7 | 日立化成(レゾナックHD) 【4004】 |
| 8 | 出光興産 【5019】 |
| 9 | オートネットワーク技術研究所 |
| 10 | コスモ工機 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくることがあります。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
防錆、防食を目的とした技術全般が対象です。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) 請求の範囲「防錆 防食」
検索条件:検索条件(ⅰ)
日付指定:出願日 20000101~20231231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数1387のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| 新日鐵住金 | 24 件/年 |
| JFEスチール | 17 件/年 |
| 日本精工 | 13 件/年 |
| NTN | 12 件/年 |
| 関西ペイント | 7.9 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人950のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| JX日鉱日石金属 | 19 件/年 |
| 新日鐵住金 | 14 件/年 |
| オートネットワーク技術研究所 | 11 件/年 |
| NTN | 10 件/年 |
| コスモ工機 | 9.8 件/年 |
(3)2016年~2023年
出願人952のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| JX金属 | 9.4 件/年 |
| 日本製鉄 | 7.6 件/年 |
| 矢崎総業 | 7.1 件/年 |
| JFEスチール | 6.0 件/年 |
| 出光興産 | 6.0 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 2000年~2007年 | 2008年~2015年 | 2016年~2023年 | |
| 1 | 新日鐵住金 (24 件/年) |
JX日鉱日石金属 (19 件/年) |
JX金属 (9.4 件/年) |
| 2 | JFEスチール (17 件/年) |
新日鐵住金 (14 件/年) |
日本製鉄 (7.6 件/年) |
| 3 | 日本精工 (13 件/年) |
オートネットワーク技術研究所 (11 件/年) |
矢崎総業 (7.1 件/年) |
| 4 | NTN (12 件/年) |
NTN (10 件/年) |
JFEスチール (6.0 件/年) |
| 5 | 関西ペイント (7.9 件/年) |
コスモ工機 (9.8 件/年) |
出光興産 (6.0 件/年) |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

多くが減少傾向にあります(出光興産のみ上昇)。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2023年 | ||
| 1 | 日本製鉄(新日鐵住金含む) | 24 件/年 (4.4%) |
14 件/年 (3.5%) |
7.6 件/年 (2%) |
| 2 | JFEスチール | 17 件/年 (3.1%) |
8.5 件/年 (2.1%) |
6.0 件/年 (1.9%) |
| 3 | JX金属(JX日光日石金属含む) | 0.6 件/年 (0.1%) |
18.6 件/年 (4.6%) |
9.4 件/年 (2.9%) |
| 4 | NTN | 12 件/年 (2.2%) |
10 件/年 (2.5%) |
1.5 件/年 (0.5%) |
| 5 | 日本精工 | 13 件/年 (2.4%) |
4.8 件/年 (1.2%) |
0.6 件/年 (0.2%) |
| 6 | 関西ペイント | 7.9 件/年 (1.4%) |
5.9 件/年 (1.4%) |
3.1 件/年 (1.0%) |
| 7 | 日立化成(レゾナックHD) | 5.0 件/年 (0.9%) |
9.3 件/年 (2.3%) |
2.0 件/年 (0.6%) |
| 8 | 出光興産 | 3.4 件/年 (0.6%) |
5.8 件/年 (1.4%) |
6.0 件/年 (1.9%) |
| 9 | オートネットワーク技術研究所 | 0.1 件/年 (0.0%) |
11.0 件/年 (2.7%) |
1.3 件/年 (0.4%) |
| 10 | コスモ工機 | 1.6 件/年 (0.3%) |
9.8 件/年 (2.4%) |
0.3 件/年 (0.1%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
全10社が2000年-2007年に出願を開始しており、開発時期の早さがうかがえます。
②開発の継続性
全10社が全期間で開発を継続していることがうかがえます。
③開発成果
日本製鉄の出願数が最も多く、開発成果がでていることがうかがえます。
トータル出願件数は以下の通りです。
<表6>
| 日本製鉄(新日鐵住金含む) | 366 件 |
| JFEスチール | 250 件 |
| JX金属(JX日光日石金属含む) | 229 件 |
| NTN | 191 件 |
| 日本精工 | 148 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・全10社が早期に開発
②開発の継続性・・・全10社が継続的に開発
③開発成果・・・日本製鉄に多くの成果
上記①の観点だと全10社の開発力が評価できます。
上記②の観点だと全10社の開発力が評価できます。
上記③の観点だと日本製鉄の開発力が高いと評価できます。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | 日本製鉄(新日鐵住金含む) 【5401】 | 〇 | 〇 | 366 件 (3.6%) |
| 2 | JFEスチール | 〇 | 〇 | 250 件 (2.5%) |
| 3 | JX金属(JX日光日石金属含む) 【5016】 | 〇 | 〇 | 229 件 (2.2%) |
| 4 | NTN 【6472】 | 〇 | 〇 | 191 件 (1.9%) |
| 5 | 日本精工 【6471】 | 〇 | 〇 | 148 件 (1.5%) |
| 6 | 関西ペイント 【4613】 | 〇 | 〇 | 135 件 (1.3%) |
| 7 | 日立化成(レゾナックHD) 【4004】 | 〇 | 〇 | 130 件 (1.3%) |
| 8 | 出光興産 【5019】 | 〇 | 〇 | 121 件 (1.2%) |
| 9 | オートネットワーク技術研究所 | 〇 | 〇 | 99 件 (1.0%) |
| 10 | コスモ工機 | 〇 | 〇 | 93 件 (0.9%) |
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
以下、上記結果および結果の詳細を踏まえた総合評価と結論です。
<総合評価>
・全体的な出願規模と推移
全対象期間を通じて上位企業は累計で数百件レベルの豊富な出願実績を有しており、技術としては成熟領域です。
・日本製鉄、JFEスチール
鉄鋼大手の2社が累計出願数でワンツーを占めており、本分野における技術的基盤を有していることがうかがえます。
・JX金属
2008年〜2015年の期間に平均18.6件/年と爆発的に出願を伸ばし、直近の期間でも平均9.4件/年で単独トップに立つなど、中長期にわたり活発な開発姿勢を維持しています。
・出光興産
上位10社の中で唯一、初期から直近の期間にかけて出願件数を右肩上がりに伸ばし続けており(直近は平均6.0件/年)、防錆・防食技術への注力がうかがえます。
<結論>
・本分野は、累計出願数が300件を超える企業が存在する成熟市場であり、日本製鉄やJFEスチール、JX金属といった素材・金属大手が市場をリードしています。
・全体としては出願数が減少傾向にあるの中で一貫して出願を伸ばしている企業(出光興産)もあります。
5.ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 防錆、防食とは
鉄をはじめとする金属は空気中の酸素や水分に触れると、化学反応を起こして錆(サビ)が発生します。
金属が周囲の環境(空気、水、酸など)によって電気化学的に溶け出していく現象を腐食(ふしょく)と呼びます。
このサビや腐食によって金属の強度が落ちたり、穴が空いたりするのを防ぎ、製品やインフラの寿命を延ばすのが防錆・防食技術です。
以下、防錆、防食技術の類型です(表8)。
<表8>
| 技術類型 | 具体的なアプローチ | 主なメリット・特徴 | 代表的な用途・企業例 |
| ① 被覆(コーティング) | 金属の表面に塗料や油、 めっきなどを施し、 水や酸素を物理的に 遮断する技術 |
めっきは傷がついても 身代わりとなって 錆びてくれる特性を持つ |
自動車のボディ、 建築資材 |
| ② 金属素材の改良(耐食鋼) | 鉄にクロムやニッケル などの他の元素を 混ぜ合わせ、 素材そのものを錆びにくい 性質に変える技術 |
コーティングのように 剥がれる心配がなく、 素材自体が半永久的な 耐久性を持つ |
橋梁、船舶、 化学プラント |
| ③ 表面改質(化学処理) | 金属の表面に特殊な 化学処理を施し、 サビの進行を止める 緻密な酸化皮膜を 人工的に形成する技術 |
部品の寸法を ほとんど変えずに 精密な防錆効果や塗装 の下地としての密着性を 高めることができる |
自動車の足回り部品、 電子機器 |
| ④ 防錆剤(添加剤・防錆油) | 潤滑油や冷却水などに 金属表面に吸着して 保護膜を作る防錆剤 を混ぜる技術 |
常に動いている機械の 内部や密閉されたエンジン・ギヤ の内部など、塗料が 塗れない場所を防錆できる |
エンジンオイル、 工業用潤滑油 |
| ⑤ 電気防食 | 金属に微弱な電流を 流し続ける、あるいは より錆びやすい金属を接続 することで守りたい金属の 電気化学的な溶出(腐食) を強制的に止める技術 |
水中や土中のように 一度設置すると塗り直し が不可能な巨大インフラを 長期間守り続ける ことができる |
海底パイプライン、 港湾施設、水道管 |
5.2 AI予測
投資妙味などをAIに予測させました(表9)。
<表9>
| 技術類型 |
技術ハードルの高さ |
投資妙味 | 投資妙味に関する解説 |
| ① 被覆 | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | 成熟市場。環境規制に伴う 代替塗料への切替需要が中心で、 業績の安定感あり。 |
| (コーティング) | (有害物質フリーと 薄膜化の両立) |
||
| ② 金属素材の改良 | ★★★★☆ | ★★★★☆ | 参入障壁が極めて高い。 次世代の水素インフラ用鋼材など、 コア素材の独占リスクに期待。 |
| (耐食鋼) | (耐食性と加工性の トレードオフ打破) |
||
| ③ 表面改質 | ★★★★★ | ★★★★★ | 投資妙味は最大。 EV化で新市場が急出現。 端子部品の防食特許を持つ 企業の爆発力に注目。 |
| (化学処理) | (EVの異種金属接合部 における電食防止) |
||
| ④ 防錆剤 | ★★★★☆ | ★★★★☆ | EV駆動部向け高付加価値オイルの 需要が世界的に激増中。 高い利益率を反映。 |
| (添加剤・防錆油) | (EV高電圧環境下での 絶縁性と防錆維持) |
||
| ⑤ 電気防食 | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | 先進国の老朽化インフラ対策が原動力。 地味ながら景気に左右されないリターン。 |
| (地下・海中インフラ での電流一様制御) |
鉄鋼大手の分野(上表②)はガチガチで、EV化などにともなう電食防止や高電圧対応(上表の③、④)が今後の注目領域といったところでしょうか。
<素材>
【2026年版】触媒銘柄10選|水電解・脱炭素・浄化技術(総合技術)
【2026年版】防錆・防食銘柄10選|シランカップリング技術
<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
<留意事項>
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