AI開発の真の実力は、その核となるアルゴリズム(計算モデル)を自社でどこまで深化させているかに現れると言えるかもしれません。
独自のコア・エンジンを構築する領域で知財の防壁を築く企業は次世代の産業基盤を支配するポテンシャルを秘めています。
AIの脳そのものを創り出す有望企業はどこなのか?
開発成果の裏付けとなる特許出願データから実態を探ってみました。
結論(簡易版)は以下の通りです。
ここで、本記事における『有望企業』とは、対象技術の開発時期、継続性および蓄積の3指標から将来の市場独占や他社に対する参入障壁を築けると判断される上位企業(TOP10にランクインする企業)を指します。
<特許銘柄TOP10>(2000年-2023年)(非上場を含む)
有力銘柄
・富士通が件数・継続性ともに最も高い開発力を示しています。
・NECやNTTは20年以上にわたる開発実績を有しており、直近で急速に出願を伸ばしたグーグル等とは異なる開発背景を持っています。
| 1 | 富士通 【6702】 |
| 2 | 日本電気 【6701】 |
| 3 | 日本電信電話 【9432】 |
| 4 | 日立製作所 【6501】 |
| 5 | グーグル 【GOOGL】【GOOG】 |
| 6 | 東芝 |
| 7 | IBM 【IBM】 |
| 8 | 三菱電機 【6503】 |
| 9 | キヤノン 【7551】 |
| 10 | トヨタ自動車 【7203】 |
ただし、上記結論は特許検索条件などによって変わってくることがあります。詳細については下記をご確認ください。
1.本評価の概要
本評価は特許情報に基づき、対象技術の開発に関わる銘柄(本サイトでは「特許銘柄」と呼びます。)を客観的に導き出そうとするものです。
本評価については以下の記事で紹介しています。
【開発力評価メソッド】特許出願に関する情報から技術開発に関わる銘柄を評価
簡単に説明すると、以下の考え方に基づいています。
① 開発開始時期:最初の出願が古い→早くから開発に着手(古いほど評価高い)
② 開発継続性:出願が継続→技術開発が続いている(継続するほど評価高い)
③ 開発成果:出願件数が多い→開発成果が出ている(成果が多いほど評価高い)
すなわち、どこよりも早くから出願され(①)、毎年出願されていて(②)、その件数が多い(③)ほど、評価される銘柄だと考えます。
これらは、技術開発によって技術課題を解決する道筋が見えると、その成果が特許出願されるという前提に立っています。
本サイトでは個々の特許は評価対象にしていません。
本サイトは特許出願件数を指標にして技術を生み出し続ける力(開発力)を評価するものです。
<注意点>
特許出願件数に基づく企業の開発力の評価には以下の問題点がありますので十分にご注意ください。
・単に出願件数が多いだけの企業を過大評価することがあります。
・個々の特許を評価対象としていないので、価値の高い技術や特許を保有する企業を過小評価することがあります。
・現実には開発成果が特許出願されない場合があります。
・対象技術が特許出願された場合であっても、特許検索において情報漏れが生じることがあります。
・特許検索において対象技術との関連性の低いノイズ情報を拾ってしまうことがあります。
・対象技術の市場性や対象企業における影響は別個判断が必要です
(まとめると、ざっくりとした評価であり、間違いもあります、ということです。)
2.特許銘柄の評価方法
2.1 評価対象
AIのコア・エンジン開発技術が対象です。
2.2 特許検索ツール
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
2.3 検索条件
文献種別:国内文献
検索キーワード:
検索項目(ⅰ) 請求の範囲「機械学習 学習モデル 学習済みモデル 教師あり学習 深層学習 ディープラーニング 生成AI ニューラルネットワーク 大規模言語モデル LLM」
検索項目(ⅱ) FI「G06N」
検索条件:検索条件(ⅰ) AND(ⅱ)
日付指定:出願日 20000101~20231231
3.特許銘柄の評価結果
3.1 期間別の出願件数の推移
2000年~2007年、2008年~2015年、2016年~2023年の3つの区間に分けました。
各期間における総出願人数と総出願件数は以下の通りです(出願人数は筆頭出願人のみカウント)。

各期間の出願件数上位企業は以下の通りです。
(1)2000年~2007年
出願人数73のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表1です。
<表1>
| ソニー | 2.4 件/年 |
| KDDI | 1.1 件/年 |
| キヤノン | 1.1 件/年 |
| 富士電機システムズ | 1.0 件/年 |
| 東京工業大学 | 0.6 件/年 |
(2)2008年~2015年
出願人数83のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表2です。
<表2>
| クゥアルコム | 4.4 件/年 |
| ソニー | 2.1 件/年 |
| 富士通 | 1.9 件/年 |
| 日本電気 | 1.6 件/年 |
| 東芝 | 0.9 件/年 |
(3)2016年~2023年
出願人数874のうちの上位5社の推移です。

上図の出願件数を企業ごとに平均化したのが下の表3です。
<表3>
| 富士通 | 49 件/年 |
| 日本電信電話 | 24 件/年 |
| 日本電気 | 23 件/年 |
| 日立製作所 | 21 件/年 |
| グーグル | 18 件/年 |
(4)出願上位企業の推移
下の表4は表1~表3をまとめたものです。
<表4>
| 富士通 | 408 件 |
| 日本電気 | 200 件 |
| 日本電信電話 | 196 件 |
| 日立製作所 | 172 件 |
| グーグル | 147 件 |
3.2 全対象期間での出願件数
下図は全対象期間における出願件数上位10社です。
各期間における出願件数の平均値を結んだ線であらわしています。

いずれの企業においても直近において件数が急増しています。
各期間の平均出願件数を下の表5にまとめました。
全期間におけるトータル出願件数が多い順に上から表示しています。
括弧内のパーセントは他社を含めた総出願件数に対する割合です。
<表5>
| 平均出願件数 | ||||
| 2000年-2007年 | 2008年-2015年 | 2016年-2023年 | ||
| 1 | 富士通 | 0.3 件/年 (1.3%) |
1.9 件/年 (7.3%) |
49 件/年 (8.6%) |
| 2 | 日本電気 | 0.3 件/年 (1.3%) |
1.6 件/年 (6.3%) |
23 件/年 (4.1%) |
| 3 | 日本電信電話 | 0.1 件/年 (0.6%) |
0.4 件/年 (1.5%) |
24 件/年 (4.2%) |
| 4 | 日立製作所 | 0 件/年 (0.0%) |
0.4 件/年 (1.5%) |
21 件/年 (3.7%) |
| 5 | グーグル | 0 件/年 (0.0%) |
0 件/年 (0.0%) |
18 件/年 (3.2%) |
| 6 | 東芝 | 0.1 件/年 (0.6%) |
0.9 件/年 (3.4%) |
17 件/年 (3.0%) |
| 7 | IBM | 0 件/年 (0.0%) |
0.1 件/年 (0.5%) |
16 件/年 (2.9%) |
| 8 | 三菱電機 | 0.3 件/年 (1.3%) |
0.4 件/年 (1.5%) |
15 件/年 (2.6%) |
| 9 | キヤノン | 1.1 件/年 (5.8%) |
0.5 件/年 (2.0%) |
14 件/年 (2.4%) |
| 10 | トヨタ自動車 | 0.1 件/年 (0.6%) |
0.4 件/年 (1.5%) |
11 件/年 (2.0%) |
次に、上表に示されるデータを上記1の考え方に照らしてみます。
①開発開始時期
7社(日立製作所、グーグル、IBM以外)が、2000年-2007年に出願を開始しており、開発時期が早いことがうかがえます。
②開発の継続性
9社(グーグル以外)が、全期間で出願を開始しており、開発を継続していることがうかがえます。
③開発成果
富士通の出願数が最も多く、開発成果がでていることがうかがえます。
トータル出願件数は以下の通りです。
<表6>
| 富士通 | 408 件 |
| 日本電気 | 200 件 |
| 日本電信電話 | 196 件 |
| 日立製作所 | 172 件 |
| グーグル | 147 件 |
4 まとめ:特許銘柄TOP10
表5に基づく評価は以下の通りです。
①開発の開始時期・・・7社(日立製作所、グーグル、IBM以外)に大差なし
②開発の継続性・・・9社(グーグル以外)に大差なし
③開発成果・・・富士通に多くの成果
上記①の観点だと7社の開発力はいずれも評価できます。
上記②の観点だと9社の開発力はいずれも評価できます。
上記③の観点だと富士通の開発力が高いと評価できます。
これらをまとめると以下の通りです。
<表7>
| 出願情報 | ||||
| ①開始時期 | ②継続性 | ③成果 | ||
| 1 | 富士通 【6702】 | 〇 | 〇 | 408 件 (8.3%) |
| 2 | 日本電気 【6701】 | 〇 | 〇 | 200 件 (4.1%) |
| 3 | 日本電信電話 【9432】 | 〇 | 〇 | 196 件 (4.0%) |
| 4 | 日立製作所 【6501】 | 〇 | 172 件 (3.5%) |
|
| 5 | グーグル 【GOOGL】【GOOG】 | 147 件 (3.0%) |
||
| 6 | 東芝 | 〇 | 〇 | 143 件 (2.9%) |
| 7 | IBM 【IBM】 | 〇 | 131 件 (2.7%) |
|
| 8 | 三菱電機 【6503】 | 〇 | 〇 | 125 件 (2.5%) |
| 9 | キヤノン 【7551】 | 〇 | 〇 | 123 件 (2.5%) |
| 10 | トヨタ自動車 【7203】 | 〇 | 〇 | 94 件 (1.9%) |
上記①の〇は2000年~2007年に出願が確認されたもの
上記②の〇は出願の継続性が確認されたもの
上記③成果の割合は総出願数に対するもの
以下、上記結果および結果の詳細を踏まえた総合評価と結論です。
<総合評価>
累積成果トップ:富士通【6702】 全期間を通じて出願件数が最多(408件)であり、特に2016年以降の年間平均は49件と他社を圧倒しています。開発の早期着手・継続性の面でも最高評価となります。
長期開発継続:NEC【6701】・NTT【9432】・キヤノン【7751】等 2000年代前半から継続して出願を確認。ブーム以前からアルゴリズム開発を継続しており、独自の技術蓄積があると考えられます。
直近の急伸:グーグル【GOOGL】・日立【6501】・IBM【IBM】 2016年以降に件数が急増。特にグーグルは直近の出願ペースが速く、短期間で上位にランクインしています。
<結論>
・富士通が件数・継続性ともに最も高い開発力を示しています。
・NECやNTTは20年以上にわたる開発実績を有しており、直近で急速に出願を伸ばしたグーグル等とは異なる開発背景を持っています。
これらの銘柄は、AIを単に利用するだけでなく、自社でアルゴリズムを構築・保有していると評価できます。
5.ご参考
以下、個々の特許出願明細書中の記載などを参考に技術情報を整理しました。
5.1 AI開発のタイプ
AI開発には大きく分けて、以下の2つのタイプがあることは前回記事でも述べました。
<表8>(前回同様)
|
タイプ1 アルゴリズム・基盤開発 |
タイプ2 実装・ソリューション開発 |
|
| 主な開発内容 | 新しい学習モデル(LLM等)の設計、数理アルゴリズム、推論の高速化 | 現場データの収集、GUI開発、既存システムとの統合、エッジAI化 |
| 必要リソース | 莫大な計算資源(GPU等)と高度な数学的知見 | 業界独自の知識とリアルな現場データ |
| 将来の有利な点 | プラットフォーム独占 | 参入障壁の構築 |
| 世界標準の基盤(OS的存在)となり市場のルールを支配できる。 | 「現場データ×専門技術」により他社が模倣できない独自の強みを築ける。 |
今回取りあげたのは、
タイプ1(アルゴリズム・基盤開発)⇒ AIそのものを作る
ことに注力している企業群です。
5.2 AIの基盤構築型(コア・エンジン開発型)の将来性の推測ポイント
特許出願の観点から以下、3点挙げます。
・継続性
長年にわたり毎年出願を継続している企業は基本特許から周辺の改良特許までを網羅した多層的な特許網を構築しており、後発企業に対する強力な参入障壁を築いている可能性があります。
・スケーラビリティ(拡張性)
開発されたアルゴリズムが医療、自動車、金融など他分野へ横展開しやすい汎用的なものであるほど、将来的にライセンス収入やプラットフォーム収益を生むポテンシャルが高まります。
・投資対効果(研究開発の効率と社会実装)
理論だけに終わらず、各事業分野への実装へとつなげる出口戦略が明確な企業ほど、研究開発投資を収益に変える力が強いと判断されます。
長年の蓄積による安定した技術優位性を有する富士通やNEC、短期間で多く出願し、次世代の標準技術を確立して勢力図を塗り替えようとするグーグル。今回の分析からは異なる戦略を持つAIコア銘柄の構図が見えてきます。
<AI・IT関連銘柄>
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<出典、参考>
・特許情報プラットフォーム(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)にて公開されている情報
<留意事項>
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